Purposeという言葉は近年注目されるようになってきているが、完全に新しい概念かというと、実はそうではないようだ。
今回のブログでは、日本と海外において以前から存在するビジネスのありかたを踏まえて、Purposeについて考えてみたい。
「Purpose」につながる概念
かつての日本企業は、時価総額ランキングで世界を相手に台頭していた。これは日本製品の品質を買われてのことであり、プロダクト・ドリブンな組織作りに成功していたからである。一方で現代においては、このプロダクト・ドリブンから変わらないまま30年の月日が経ち、時価総額ランキングにはGAFAをはじめとするPurpose・ドリブンな企業等が並ぶ。日系メーカーにありがちな縦割り社会の組織が、イノベーションや改革の足枷となっているのである。しかし、このような評価の一方で、日本にはPurpose・ドリブンな組織づくりと親和性のあるビジネスの理念がある。
それは、近江商人たちを起源にした「三方良し」の考え方である。これは買い手だけでなく、売り手・世間にも良い商いをすることを目標にすることであり、サービス・製品を通して、全てのステークホルダーに対して長期的な視座でソーシャルグッドを提供するという考えともいえる。つまり、現在のCSV(Creating Shared Value)の源流ともいえる。
社会的意義を含んだ企業の存在意義=Purposeは、新しい概念と考えられがちであるが、ただ日本に古くから根ざしている哲学を忘れられていただけだと指摘する専門家もいる。
それに対して、海外ではどうなのか?
ちなみに、海外では、日本ほど古くはないものの、「Cause」という考えが存在していた。Causeとは、存在意義と捉えられるPurposeと異なり、社会的大義と捉えられる。
「Cause Marketing」(以下、コーズ・マーケティング)と呼ばれる手法では、商品やサービスを購入することで、積極的に社会的貢献につながることを消費者に訴求する。活動には特定の商品の売り上げの何%かをNPO法人や商品の生産元の国へ寄付するなどがあげられ、この概念が世界に広まったきっかけとして、1983年アメリカン・エキスプレスによる「自由の女神修復プロジェクト」がある。このプロジェクトは、アメリカン・エキスプレスのカードを利用するごとにアメリカン・エキスプレスが1セントを寄付するというもので、話題となった。結果として、170万ドル(日本円にして1億7000万円)が集まり、このプロジェクトの期間中にカードの利用は約30%伸びたという。これはコーズ・マーケティングとして大成功と言え、また、三方良しにも通じるものもあると思われる。
現在は、コーズ・マーケティングより包括的な概念として、欧米ではミレニアム世代を中心にPurposeに基づいた経営、組織づくりが支持されている。一製品やサービスが社会貢献をするのではなく、会社の存在が社会へ貢献するためと銘打つことでより持続的な成長を生み出す可能性を秘めている。
今後の日本におけるPurposeへの期待
日本でも、2019年のソニーがPurposeを打ち出したことに続いて、アフターコロナを見据えた多くの企業が次々とPurposeを導入している。「Purpose」につながる「三方良し」という概念は、経済成長や、株主至上主義の流れの中で、だんだん薄まって、「なぜ自社が存在するのか、社会にどういうふうに貢献できるか」の視点が忘れられがちなところがあったのではないか。その結果、Purposeが何か新しいもののように受けとめられているのではないか。今日、世界全体でPurposeが注目され、株主資本主義からステークホルダー資本主義への流れが高まっている、馴染みのある「三方良し」を思い出し、さらにアップデートしてあらゆるステークホルダーに向き合う「八方良し」に進んでいくときである。日本でも今一度、企業の存在意義に向かい合い、より高次元なステージに進んでいくことが必要となるだろう。
参考文献
1.Sustainable Japan. (2015). 【アメリカ】Cause(大義)とPurpose(目的)の違いは何か?
https://sustainablejapan.jp/2015/02/10/cause-purpose/13787(accessed on 2021-05-31)