自社の歩みを再結晶化し、未来への羅針盤となるパーパスを策定 〜カンロ株式会社の取り組み〜

自社の歩みを再結晶化し、
未来への羅針盤となるパーパスを策定
〜カンロ株式会社の取り組み〜

自分たちは時代の変化にどう合わせて生き残っていくべきか。築いてきた価値観や強みを生かしながら、未来をどう描くのか。これらは、多くの企業が直面する難題です。

「カンロ飴」や「ピュレグミ」を始めとした菓子や食品の製造販売を手がけるカンロ株式会社では、2022年に自社のパーパスを策定し、社員への共鳴活動を進めています。なぜこのタイミングでパーパスを策定したのか。そして、さまざまな職種の社員に対し、どのようにパーパスの共鳴活動をしているのかを伺いました。

話し手
カンロ株式会社 執行役員 デジタルコマース事業本部長 兼 コーポレートコミュニケーション本部長 内山妙子様

聞き手
アイディール・リーダーズ株式会社 丹羽真理

※以下インタビュー記事内では敬称略で掲載させていただいております。
※本記事内の肩書き・役職は取材当時のものです。

コロナ禍がきっかけとなったパーパス策定

丹羽:2022年に全社パーパスを策定されましたが、これにはどのような経緯があったのでしょうか。

内山:コロナによる環境変化が一番の理由です。当社には、「糖から未来をつくる。」というコーポレートスローガンがありました。これは、ずっと糖と向き合ってきた私たちが、これからも変わらずに糖とともに発展していく思いを込めたものでした。自社の強みを前面に出したスローガンです。

しかしながら、コロナによる大幅な環境変化により「社会のために、企業として何をするべきなのか」を、経営陣をはじめ社内で考えるようになりました。そこで、社会に対して発揮する価値を表すメッセージを作ろうという機運が高まり、パーパスに着目したのです。

当社では2021年、中長期の羅針盤として「Kanro Vision 2030」を策定し、今後10年で事業領域を拡大していく意思を社内外に示しました。そこで、次に策定する2022〜2024年度の3ヵ年を期間とする「中期経営計画2024」には、パーパスを記載することで自分たちの事業の存在意義を盛り込もうという話になったのです。

丹羽:会社がこれから変わっていくタイミングで、その未来をつくる自分たちの存在意義であるパーパスを作ったんですね。貴社の場合は、未来に向かうパーパスなのだなと感じました。

私たちは、パーパスには大きく2つの種類があると考えています。ひとつは「過去・現状型パーパス」です。自社がこれまでやってきたことを改めてパーパスという言葉にするものです。

もうひとつは、「未来型パーパス」。今やっていることに加え、将来のありたい姿を描いてパーパスを考えるものです。新たなチャレンジへの原動力となりうる未来型パーパスは、変化が求められている会社には適していると思います。

内山:当社はまさに、「未来型」で考えましたね。「Kanro Vision 2030」で宣言した新規事業は、これから模索する段階にあります。ただ、糖の領域を超えて何でもやっていいわけではありません。事業の方向性を決める際の北極星となるのが、パーパスだと考えています。会社として新しいチャレンジをするときにこそ、パーパスの必要性を強く感じます。

社内に以前からあった思いが、パーパスとなって再結晶化した

丹羽:パーパスの文言(ステートメント)は、どのように考えたのですか。

内山:コーポレートスローガンが起点になっています。「糖から未来をつくる。」の英語バージョンとして定めていた「Sweeten the Future」こそが、実はパーパスなのではないかという話になったのです。

「Sweeten」には「甘くする」という意味に加え、「未来を明るくする」といった意味合いも含まれます。この観点を生かして、「Sweeten the Future」から日本語のパーパスを考えることにしました。

「我々は、糖で社会をどのように良くしていきたいのか」を考え、パーパスの文言を策定するにあたっては、社長へのヒアリングから始まり、各部門の社員でワークショップも行うなど、多くの議論を重ねた結果、「心がひとつぶ、大きくなる。」という言葉に纏まりました。

キャンディって、気持ちが沈んでいるときに口に入れると癒されますよね。子供がケンカしているときにキャンディをなめてもらうと、ケンカが止むこともあるんです。社員によるワークショップでは、「飴をなめながら争わないよね」という話も出ました。糖によって人の心が癒され、「心がひとつぶ、大きくなる。」瞬間を積み重ねていきたい。そんな思いがこもったパーパスです。

丹羽:元々あった言葉や思いがベースになったんですね。最近では、パーパスを策定する会社が増えていますが、「新しい言葉を作らなければならない」と思い込んでしまうケースも見られます。

しかしながら、我々も多くの企業様との取り組みを通して、「パーパスは、価値観や文化として、社内に既に存在している」ように感じることがあります。パーパスを「策定」するというより、「再発見」するイメージです。

自分のパーパスを考えることで、全社パーパスの理解を促す

丹羽:パーパスの検討プロセスにおいては、どのようなことを大切にされましたか。

内山:経営から現場へ、一方的に落とし込むだけにならないよう意識して進めました。上層部だけで物事が決まり、突然「こうなりました」と言われても、社員は納得も共感もできないと思います。社員に納得してもらう内容や進め方を大切にしました。

パーパスを検討している最中も、Web社内報で活動内容を発信したり、希望者を募って座談会を開いたりすることで、できるだけパーパスに関わる機会を作りながら進めたのもこだわりの一つです。

丹羽:パーパスを検討し始める段階からできるだけ社員の皆さんに情報を伝えて巻き込んでいくことは、非常に重要なポイントだと思います。せっかくパーパスを策定しても、社内にポスターが貼られただけで終わってしまうことも少なくありません。

ちなみに、パーパスが決まった後の共鳴活動としては、どのようなことをされてらっしゃいますか。

内山:2022年の創業110周年事業と関連させて、社内外への発信を強化したり、全国の拠点を回って直接コミュニケーションをしたりしました。

さらに、社員同士のコミュニケーションに使ってもらう目的で、当社の公式キャラクターである「カンロちゃん」が描かれたカードを全社員に配布しました。これは、社員一人ひとり異なるカードなのです。各自がカンロちゃんの洋服の柄、肌と髪の色、アクセサリーを数種類から選び、自分自身のパーパスが記載されています。

コロナ禍でどうしても以前と比較して社員間のコミュニケーションが減り、新しく入社したメンバーとの交流もしにくくなってしまったので、このカードを使って自己紹介をしてお互いを覚えてもらい、関係性を築いてほしい、と考えました。

丹羽:こちらもすごく素敵な取り組みですね。社員全員が自分自身のパーパスを考えて言語化することは、なかなかできるものではありません。元々、こういったことを考える組織文化だったのですか?

内山:そうではなかったと思います。110周年事業を行う際、お互いに感謝の気持ちを伝え合ってほしかったんです。なので、自分のパーパスが書かれたカードをきっかけにコミュニケーションが始まり、お互いに「ありがとう」の気持ちを伝え合えるといいなと考えました。

各拠点を回った際、このような思いを社員へ伝えて、個々人のパーパスは各自で考えてもらったという経緯です。

丹羽:これこそがまさにパーパスの共鳴ですよね。会社のパーパスを示しただけでは、社員が共感するまでにはなかなか至りません。そこで、自分のパーパスを考え、会社のパーパスとの重なりを考えることが非常に重要だと考えています。私たちはそのプロセスを「共鳴」と呼んでいます。

自分と会社のパーパスの重なる部分が見えてくると、そこから会社のパーパスに対して前向きな気持ちが生まれて、行動につながっていくんです。

だからこそ、現場に具体的な変化をもたらしたい場合は、共鳴活動こそが重要だと考えています。

内山:なるほど。今後、カンロちゃんのカードをそのように活用することもできそうですね。

丹羽:もう一点、共鳴活動でお伺いしたいことがあります。工場などで厳格にオペレーションを遂行する社員の方にパーパスを理解・共感してもらうことに難しさを感じることはありますか。また、どのような共鳴活動をされているのでしょうか。

内山:工場へのパーパス共鳴は、私も難しく感じています。実は今、業績が好調なため、工場の業務負荷が高くなっているのです。

そのため、まずは社員がひとりでゆっくり休憩できるスペースを確保したり、ランチタイムが充実するサービスを導入するなど、工場内の環境改善から着手しています。心身ともに健全な状態でないと、パーパスを言われても受け入れられないと思うからです。

また、工場がある地域の方々と交流する機会も設けて、地域に貢献している企業であるという意識を持ってもらうようにもしています。パーパスを直接的に共鳴するというよりも、その周辺にある施策から行っている形です。

丹羽:働く環境を整えたり、会社へのエンゲージメントを高めたりすることから始めて、そこからパーパスの理解を深めていくステップを踏んでいるのですね。とても学びになります。

パーパスを通して仕事の意義を考え、視野を広げてほしい

丹羽:パーパスの共鳴によって、社員の皆さんにどのようになってほしいと期待していますか。

内山:パーパスを通して、どのような職種の社員にも、自分の仕事の意義を考えてもらえるといいなと思っています。自分たちの仕事は飴を作るだけでなく、世界をよりよくするためにあるのだと感じてほしいですね。

そして、「心がひとつぶ、大きくなる。」瞬間を増やしていくことは、自部門だけでできるものではありません。社員一人ひとりが、部門を超えて全社視点を持つことも期待しています。

丹羽:期待する姿を実現するために、組織をどうしていきたいとお考えですか。

内山:全国に拠点がある会社ですので、全社員に平等に情報が届く環境をつくらなければならないと考えています。今よりもさらにオープンな組織文化にしていくことで、お客様をより意識して仕事をするようにしていきたいですね。

そのためには、たとえばオフィスの中にパーパスを感じられるものが点在しているなど、小さな仕掛けがたくさんあるといいのだろうと考えています。文房具といった、頻繁に目に留まるようなものでもいいと思うのです。

こうした環境整備と並行して、パーパスを体現している事業が立ち上がると、社員の理解も深まると考えています。現在、ECを「ライフスタイルショップ」と位置付け、EC専用の商品を拡充することを通して、日々の生活において「心がひとつぶ、大きくなる。」シーンを増やそうとしているところです。

なお、社内調査によると、社員の全社パーパスへの理解度はこれからという段階にあることがわかっています。「心がひとつぶ、大きくなる。」というパーパスは抽象度が高い表現なので、社員が業務とすぐに結びつけることは難しく、理解や共感には時間がかかるでしょう。ただ、抽象度が高いからこそ、自分自身の解釈で納得してパーパスを理解するための余白があると考えています。

ただ、パーパスに対する貢献意欲は高いという結果が出ています。パーパスという存在そのものを好意的に思い、実現に向けて行動したいという意欲を持っていることは本当に嬉しいです。ここからさらに共鳴活動を続けていきたいですね。

丹羽:これからの貴社のご活躍が楽しみです。本日はありがとうございました。

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