文化・背景の異なる他者と協働し、成果を出すために何が必要か?(enfac主催セミナー 講演レポート)

文化・背景の異なる他者と協働し、
成果を出すために何が必要か?
(enfac主催セミナー 講演レポート)

2023年7月21日(金)、株式会社アントレプレナーファクトリー/enfac主催『“企業と人材開発“連続セミナー第3回 「文化・背景の異なる他者と協働し、成果を出すために何が必要か?」』に、弊社CCO(Chief Culture Officer)の宮森が登壇しました。本セミナーレポートでは、宮森の講演内容と、インテグラル理論・成人発達理論の第一人者である鈴木氏との対話セッションの内容をご紹介します。

登壇者紹介

鈴木 規夫
一般社団法人Integral Vision & Practice代表理事
1990年代前半に合衆国の大学に在籍中にケン・ウィルバーの著書に出逢い大きな衝撃を受け、その後California Institute of Integral Studiesで「人間(個人・組織・社会)の成長・発達の可能性を解き明かすための統合理論」としてインテグラル理論に関する研究に取り組んだ。帰国後は、執筆やワークショップや講演を通してインテグラル理論の普及に従事する傍ら、主に企業組織の人材育成と組織開発の領域においてプログラムの設計と統括、及び、コーチ、コンサルタント、インストラクターとして多様な階層や立場のプロフェッショナルの支援活動に従事している。また、成人発達理論に関しては、発達心理学者のSusanne Cook-Greuter等に師事し発達段階測定と発達志向型支援に関する訓練を積むと共にこれまで約20年にわたり実務領域におけるこの理論の応用と実践に取り組んでいる。

宮森 千嘉子
アイディール・リーダーズ株式会社 Chief Culture Officer、一般社団法人CQラボ主宰
「文化と組織とひと」に橋をかけるファシリテータ、リーダーシップ&チームコーチ。 サントリー広報部勤務後、HP、GEの日本法人で社内外に対するコミュニケーションとパブリック・アフェアーズを統括し、 組織文化の持つビジネスへのインパクトを熟知する。 また50カ国を超える国籍のメンバーとプロジェクトを推進する中で、 多様性のあるチームの持つポテンシャルと難しさを痛感。 「違いに橋を架けパワーにする」を生涯のテーマとし、日本、欧州、米国、アジアで企業、地方自治体、プロフェッショナルの支援に取り組んでいる。英国、スペイン、米国を経て、現在は東京在住。共著に「経営戦略としての異文化適応力」(日本能率協会マネジメントセンター)。 一般社団法人CQラボ主宰。 青山学院文学部フランス文学科卒、英国Ashridge Business School MBA 「文化と経営の父」と呼ばれるオランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード博士の理論と、IQ、EQに続く3つ目の知性「CQ」 Cultural Intelligenceの研究をベースに、 経営戦略や組織文化変革に関するアセスメント実施及びコンサルティングを提供しており、 アイディール・リーダーズのビジョン策定プロジェクトや組織風土変革プロジェクトにおける組織文化診断として導入事例多数。

目次

1. CQ(Cultural Intelligence)とは何か?
2. CQにおける「文化」とは何か?
3. 文化の共通点と違いを理解するためのナレッジ
4. 対話セッション 
 〜文化・背景の異なる他者と協働し、成果を出すために何が必要か〜
 一般社団法人Integral Vision & Practice代表 鈴木規夫氏
 アイディールリーダーズ株式会社 Chief Culture Office・一般社団法人CQラボ主宰宮森千嘉子
5. 質疑応答

1. CQ(Cultural Intelligence)とは何か?

 CQ(Cultural Intelligence)とは、「文化背景の異なる人々と協働し、成果を出す力」のことです。IQ、EQに続く3つ目の知性「CQ」と呼ばれ、その気にさえなれば誰もが身につけることができる能力であるCQは、以下4つのケイパビリティが相互に影響しあうことで伸ばすことができます。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
① 動機・自己効力(Drive):異なる文化の人材・チームとの協働に必要な好奇心と忍耐力
② 認知力(Knowledge):文化の共通点と違いの理解
③ メタ認知力(Strategy):異なる文化を活用する気づき、設計力と内省力
④ 行動力(Action):多文化環境の中で状況に応じて行動を変える適応力
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ビジネスにおける多様性の効果は明らかですが、一方、様々な研究は、ただ多様な人材を採用しただけでは、イノベーションやクリエイティビティは生まれないことを示しています。多様な人材一人一人が、生き生きと自分らしく、組織に貢献するインクルージョンを実現するにはどうしたらいいのか?その鍵となるのがCQです。

 CQの世界では「違うことは、ただ、違うこと」を最重要視しています。私たち人間は違いを変と捉えがちですが、CQではこれを否定します。CQが高くなると、「違い」に対する体験の仕方や世界観が変わりますが、その段階は次の5つに分けられます。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Step1.拒否:違いを認識しない 
Step2.二極化:違いを良し悪しで感情的に判断する 
Step3.最小化:違いを過小評価する
Step4.受容:違いを深く理解する 
Step5.適応:違いに橋をかける(違いを活用していく)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 受容・適応の段階まで到達すると、違いを「コスト」から「パワー」に変えられるようになります。つまり、違いをコストにするか、力にするかは、人々のCQの段階に委ねられるのです。CQが高い人は、自分のメガネと相手のメガネを取り替えながら世界を見る(=複雑性を受容する)ことができ、その違いから新たなパワーを創り出します。また、バイアスという観点でも、敏感に気付き、容易にイメージし、正しくマネージできることがわかっています。

2. CQにおける「文化」とは何か?

 ではここで、改めて「文化とは何か」について考えてみましょう。「文化」の定義は世の中に溢れていますが、どの表現においても、「文化は個人ではなく集団に属するもの」であり、「生まれ持ったものではなく後天的に学び成長させていくもの」であるという点で共通しています。

 文化と経営の父と呼ばれるホフステードは、文化を「ある集団と他の集団を区別するマインドのプログラミング」と定義しています。この考え方に従うと、人間の思考や行動のパターンに影響を与えるプログラミングには、人類共通レベルのもの、個人レベルのもの、そして文化レベルのものがあることになります。

 例えば、「感情を持っている」ことは、どの人間にも備わっている人類共通レベルのプログラミングです。一方で、その感情をコントロールする手段や発散方法は文化によって異なります。組織のリーダーがみにつける最も重要な能力の一つが「自己認識力ですが、自身における文化の影響を考慮しないまま自己認識が高い、と考えることは不誠実にあたるため、まずは自分の、そして他者がどのように文化のプログラミング受けているのかを知る必要があります。こういった背景から、米国や欧州、アジアでは「文化」をリーダーシップのスキルとして使っていく、つまりCQについて、世の関心が高まってきていると言えます。Google、Starbucks、Coca-Cola、ハーバード大学などの世界的な企業・組織でも、21世紀のリーダーに必要不可欠な資質としてCQが着目されています。

3. 文化の共通点と違いを理解するためのナレッジ

 文化には様々なレベルのプログラミングがありますが、その中でも、無意識に人の思考に埋め込まれ、思春期前にはプログラムが完了すると言われている「価値観」を意識化することが、様々な文化を理解する上で非常に重要なステップとなります。文化の影響を客観的に把握して自己と他者の認識を高めていくためには、「文化的価値観」に着目することが有効です。これは、自分の好みや、相手に対して自分が持っているバイアスを知る上で非常に役立ちます。中でも有名なものが、本日ご紹介する【ホフステードの6次元モデル】です。

 このモデルは、「全ての社会・集団には共通の課題が存在するが、課題への対処方法は社会によって異なる」という考え方を前提としています。課題を6つの次元で分析し、その解決方法を1〜100の数値で視覚化しています。

 例えば、自己と他者との関係性という観点では、個人主義か集団主義かでその世界観が大きく変わってきます。アメリカを筆頭にほとんどの欧州諸国は個人主義、中国を初めとしたアジアや中南米、中東。アフリカ、ロシア、ウクライナなどの文化では集団主義の傾向が強くなります。さらに、文化的価値観は複数の次元を組み合わせることで、より多くの事実を明示してくれます。

 日本のスコアを見てみると、自己と他者との関係性(個人主義↔️集団主義)や自分よりパワーを持つ人が社会にはいる、という事実にどう対処するかを示す権力格差においては中央値をマーク。意思決定の側面ではバランス型と言えます。経営者と一般社員の中間の立場であるミドルが主体的に動く「ミドルアップダウンマネジメント」は、この価値観が根付いている日本だからこそ成り立つと言えるでしょう。

 一方で、不確実性の回避や達成志向といった項目では数値が極端に高くなっています。これは、日本人が改善や安心安全にモチベートされやすいことを示すと同時に、違いをパワーに変換しづらい価値観を持っていることを意味しています。曖昧さを許容できない特性上、行動の予測がつきづらいマイノリティを嫌がったり、達成を重要視するあまりマイノリティに対して同化を強要したりする傾向があるので、注意が必要です。

 昨今、多くの日本企業がダイバーシティ強化に取り組んでいますが、受け入れ側が自分たちの「文化」への感受性の低さに気づけていないがゆえに、無意識下で偏見や差別が頻発しているケースが少なくありません。マイノリティを排除しやすいという自分たちの潜在的な価値観を把握した上で、同化ではなく一人ひとりが自分らしさを発揮できる状態(=インクルージョン)を目指していく必要があります。

 CQを伸ばすためには、そもそも「違い」への好奇心や忍耐力を身につけること、そして「文化的価値観」というツールを用いて理解を深めたナレッジをどう活用し行動に反映していくかが重要です。6次元のアセスメントの結果は、会社の文化的立場を知るにとどまらず、チームを構成する一人ひとりの文化のプロフィールを把握しお互いの理解を深めるためにも活用できます。組織を成長させるためには、文化というツールを効果的に使いこなせるかがカギとなります。書籍やマイクロラーニングを活用しながら、1日30秒でもいいので自分が体験したことを、ホフステードの6次元で分析し、鳥瞰して客観的に把握することを習慣化していただければと思います。

4. 対話セッション 
 〜文化・背景の異なる他者と協働し、成果を出すために何が必要か〜

※S:鈴木 M:宮森

S:リーダーシップ開発において異文化理解の重要性が高まってきていますが、実際のところ、単発のレクチャーを受けただけで、文化の感受性や適応力を身につけることはできるのでしょうか? また、そういった能力を育てる努力はいつから始めるべきでしょうか?

M:学びのスタートは早ければ早いほど良いです。自分自身が文化にどういう影響を受けているのかを知って初めて、リーダーシップを開発する上で必要な自己理解が深まります。また、CQは1回トレーニングをしたからといって育つものではありません。本日ご説明した文化のフレームやツールを「どう使っていくのか」という部分に注力して、長期的に能力を開発していくことが必要だと考えています。

S:グローバルに展開している企業ですら、「文化」を本当の意味で理解し、話題に上げることは少しハードルが高いという声もあります。

M:私たちは必ず何かの集団に属し、その文化の影響を受けているため、リーダーとして文化を語るスキルは非常に重要です。例えば、昨今注目を集める「心理的安全性」も、文化によって機能するパターンとそうでない場合があります。その際に、「ホフステードの6次元モデル」などのツールを活用することは1つの手段になりますね。

S:先ほど、文化を学び始めるのは早い方がいいとありましたが、留学や海外赴任などの異文化と隣り合わせの環境下に身を置く機会のない人はどうすればいいのでしょうか?

M:人が違えば、その文化的背景は必ず異なります。CQを高めるための訓練としては、まずは自分と他人の間にある文化の違いを見つけること、そして、その違う側面に対してポジティブな好奇心を持ち続けること、その2つが大切です。

S:発達理論の世界でも同様のトレーニングが実践されています。例えば、会話の背景にある文脈の意味や本質を見抜く力を鍛えるために、若いうちから問いかけの練習を積むことが推奨されています。最近では、相手が何を思っているのか予想するスキルとは別に、相手が何を思っているのか実際に聞き出すスキルも同様に重視すべきだという意見もあります。この点についてもCQと共通する部分がありそうですね。

M:はい。今のお話をCQの4つのケイパビリティで捉え直すと、相手の考えていることを予想するスキルはKnowledge、仮説を立て対話を通して検証をするのがStrategy、そして2つの視点で確かめた事実を協働しながら前進させていくことがActionにあたりますね。

S:Knowledgeが充実しているほど、かえって「頭でっかち」になってしまう可能性はないのでしょうか?

M:可能性としては否めません。だからこそ、モデルと実例を行き来するケーパビリティィ、CQ Strategyが極めて重要です。この力がなければCQは伸びませんし、CQをリーダーシップの一部として活用することも難しいと断言できます。

S:Knowledgeだけに頼らず仮説を検証するまでを習慣化しているリーダーがいると、組織のパフォーマンス向上にも繋がるのではないでしょうか。

M:本当にそうですよね。CQを使う上でのポイントは、違いを変だと思わないことと相手の動向に関心を向けること。そして、仮説に基づいて決断してしまうのではなく、判断を保留し正しいかどうかを検証することです。こういったCQの能力は、物理的な赴任経験があっても低い人はたくさんいるので、結局は、個々人がCQを高めることを望むかどうで決まると言えそうです。

S:やはり「好奇心」「オープン」などがキーワードですか?

M:その通りです。本社と赴任先の方針が違っている時、ほとんどの人は本社の方針に従うと言いますが、真のグローバル人材は、迷いながらも今自分がいる組織にとってベストな選択をする印象です。

S:そのジレンマは、グローバルで活躍するリーダーが直面する大きな課題の一つと言えますね。発達論の視点で読み解くと、2つの方針の狭間でもがくことができるのは、発達しているからこそと言えます。どっちつかずで中途半端なわけではなく、橋渡しをしようと考えられるほど成熟しているという風に捉えます。

M:橋をかけるということは、双方から嫌われることを恐れない、ということでもあります。複雑性の中に自分を入れる必要性があるので、決して楽なことではありません。しかしその先にあるものを知っている人は、苦しくてもチャレンジしたくなるのだと思います。

S:一部では、発達段階が高いと複雑性を受容できるようになる一方で、人より多くの要素を認知することができるようになるために判断までの時間がかかり、無能と捉えられるリスクもあるという声もあります。また、複雑性を受容できればできるほど、シンプル化できる能力が必要になるとも言われています。

M:確かに、CQの発達段階が受容にある人は、相手の文化的背景を常に考慮してしまうがゆえに正解がなくなり、判断する要素を失ってしまうリスクを持っています。その次の段階の適応(adaptation)では、同時に、複雑性の高いものから要素を取捨選択する能力が備わってきます。

S:受容から適応の段階に進化するポイントはどこですか?

M:痛みを引き受けた上で処理する能力、そして好奇心やオープンマインドといった基本的な姿勢です。

S:ありがとうございます。本日伺ったお話の中の特にStrategy(メタ認知力)とAction(行動)の部分は、発達理論の世界におけるミッシングピースとなりうるなと思いました。人の心理に目を向けている我々にとって、自分たちの知見を複雑化する社会の中でどう役立てていくのかという観点で、大きなヒントを得られた気がします。

M:先にお話しした文化における3つのプログラミングのレベルと発達理論を掛け合わせると、ポジティブな化学反応が起きそうですね。

5. 質疑応答

―日本の文化はどのように「変容」へと発達していくと思いますか?

M:世界の動きが変化するので、各国の文化的価値観も変容します。しかし、国と国のポジション(スコア)の差は変化しない、という研究結果が出ています。例えばSNSでは匿名で声を上げる現象が広がっており、それが二極化をもたらしているとも言えるでしょう。しかし、匿名で自分の声をあげるだけでは、対話が成立しません。どの世代おいても不確実なことを嫌うという日本の文化的価値観では、本音で対話をすることが難しい。ヘルシーな対立さえも恐れているのは怖いことだと思っています。

S:voiceを出さなければ対話や対立は生まれず、ただの群れとして淘汰されていきます。最近の日本は、感情に基づいて表現・行動するということ自体が弱体化している印象があります。

M:voiceを出さなければ学びには繋がらないということを日々教壇に立ちながら痛感しています。私は実践者の立場ですが、カルチャーの理論を研究されている師に向かって、「それは違う」と批判することがよくあります。彼らは「なるほど。その視点はなかった、ありがとう」と私の考えをいつも尊重してくれるんですよね。このように、voiceを立てることと、それを尊重してもらうという経験が、日本人にはもっと必要なんじゃないかなと思います。自分のカルチャーのプロフィールを十分理解した上で、そのメガネを外して相手を評価できる謙虚な人が増えるといいですね。

株式会社アントレプレナーファクトリー/enfacご紹介

株式会社アントレプレナーファクトリーは、経営に、起業家に、最も役に立つ、動画学習サービス企業です。
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enfacでは、「自ら課題を発見し、事業と利益を創造する」というコンセプトのもと、階層別又は課題別に対応した最新・最良のコンテンツを保有しています。

今回のセミナーに登壇した宮森氏、鈴木氏両名のコンテンツです。
一部お試し視聴も可能ですので、こちらからお申し込みください。

「異文化理解 リーダーのためのCQ(Cultural Intelligence)」(宮森千嘉子氏出演)
→内容詳細はこちら:https://www.enfac.co.jp/contents/cq/?utm_source=m

「企業における成人発達理論 VUCA時代の人材育成に必須の領域」(鈴木規夫氏出演)
→リンク:https://www.enfac.co.jp/contents/eadt/?utm_source=s

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