仕事におけるPurpose – 第3回:Purpose Drivenな組織づくり①

仕事におけるPurpose – 第3回:Purpose Drivenな組織づくり①

第2回では企業において、共通善と利益追求のジレンマを解決する鍵となるのが「Purpose」であると論じた。しかし、企業にPurposeを浸透させることは困難な課題である。

第3回では、Purpose-driven Organizationsの著書で第3章を執筆しているCarlos Ray氏とMiquel Bastons氏が提唱する、「Purposeの3Dモデル(図1)」を扱って、Purpose Drivenの組織づくりのアプローチ方法を紹介する。

 

Purposeの3Dモデルは3つの要素(ナレッジ、アクション、モチベーション)から成り立つ。

1)Knowledge(ナレッジ)

まずは一人ひとりがPurposeを理解し、自分の言葉で表現するところから始まる。「どれだけPurposeを理解しているか」という「ナレッジ」が鍵となる。「Purposeとは一度明らかになるといかなる時代や機会を経ても不変である」2とし、最初に明らかにする過程が大切であるとしている。

2)Action(アクション)

Purposeを定め、それを実際の行動に移すアクションが二番目の鍵。Purposeは特定の行動ではなく、組織全体の活動に現れる必要がある。組織の活動全般、また意思決定のすべてにPurposeは影響をもたらす。

3)Motivation(モチベーション)

Purposeは、個人の信念と動機に基づくものでなければ人の心を動かせない。人の心にPurposeが響くと、それが大きなエネルギー源となり、さらにPurposeの達成に近づけ

これらの3つの要素はそれぞれ繋がっている

①KnowledgeとMotivationをつなぐもの=Internalization (内在化)

Purposeを自分に内在化させる必要がある。内在化しなければ、Purposeは存在しないのと同然である。

②KnowledgeとActionをつなぐもの=Implementation (実現、遂行)

理解しているPurposeを実際のアクションとして遂行すること。Purposeを具体的なアクションによって表出する。

③MotivationとActionをつなぐもの=Integration (統合)

Purposeを「習慣」に変化させること。個々人のモチベーションを調和させながら、日々のアクションに移して習慣化することである。

「Rey, C., & Bastons, M. (2019). Chapter 3. Three dimensions of purpose: Knowledge, motivation, and action. In Rey, C., Bastons, M., & Sotok, P. (2019). Purpose-driven Organizations:

Management ideas for a better world. Palgrave Macmillan.」より

アイディール・リーダーズが作成

 

3Dモデルの特徴は、3つの要素が順番に行われるステップやステージでもなく、同時に行われるという点である。

本記事では、途上国の起業家を支援するマイクロファイナンスNPO「Kiva」の事例を用いて、どのようにPurpose Drivenの組織づくりが行われていくのか探っていく。

Kivaは2005年にサンフランシスコで設立された国際的な非営利団体である。金融サービスのアクセスを拡大し、融資が行き届いていないコミュニティの繁栄を支援することをミッションとしている。

Kivaの業務内容は、多くの人々から小口の現金を集め、必要な人に融資をすることを通して、他人の人生に真の変化をもたらすことを支援することである。

Kivaの活動を通じて、学生は授業料を支払い、女性はビジネスを始め、農家は設備投資を行い、家族は必要な緊急医療を受けることを支援できるようになっている。

本記事では、Kivaの取り組みをInternalization(内在化)、Implementation(実現、遂行)、Integration(統合)の観点から紹介する。

Internalization(内在化)

企業が共通善を踏まえたPurposeを重視すると、従業員へのPurposeを内在化を促すだけでなく、彼らの忠誠心、柔軟性、積極的な参加意欲を高めることができる。3

Kivaは “Connect people throughlending to alleviate poverty”(貧困を緩和するために融資で人と人をつなぐ)をPurposeとして掲げている。4

従業員が収入を得ること以上のより大きな意義を追求するためにPurposeを掲げている。

また、Purposeを軸にしたエンゲージメントプログラムを開発し、フォーチュン500企業や大手財団と提携しながら、従業員に世界中の個人、家族、コミュニティに手を差し伸べ、力を与えることを可能にしている。

Purposeを掲げることで、Kivaの社員はより高い目標に向かって仕事に取り組むと同時に、自分たちが社会にとって良いことをしている認識を持つ。「融資で人と人をつなぐ」だけでは他の金融機関との仕事内容は変わらないが、「貧困を緩和するために」と利他的な意義を持つことで社会に対する責任が生まれ、同僚を「より高い目標を達成するためのパートナー」だと感じるのである。

Implementation(実現、遂行)

では、このPurposeの価値を従業員に感じてもらうため、Kivaはどのような支援を行っているのだろうか。

Kivaは一人ひとりの従業員に、2年に一度Kivaの与えているインパクトを直接体験するための旅行の機会を提供している。それが、「BI-ANNUALPARTNER TRIP」と呼ばれる、「自分たちが世界に与えたインパクトを体験する旅行」である。帰国後、社員はその体験について同僚と共有する。この旅行は1年おきに繰り返し行われ、自分たちの仕事に対する感動を持続させている。

このように、Kivaは自身が創り出している価値を旅行を通して感じてもらうことで、強くPurposeに結びついた従業員体験を提供しているのである。

Integration(統合)

その他にも、KivaはPurposeの価値を体感するために「ALL HANDS」というイベントを月に一度開催している。このイベントでは、Kivaの共同創業者が自身の活動でどのように他者に貢献したかというストーリーが語られる。

イベントでは仕事とプライベート両方のストーリーを語ることで、従業員がお互いをよく知り、仕事以外でもPurposeを体現していることを実感することができる。この「Purposeを体現している」という実感が、より安定した雇用にもつながっていると考えられる。

 

今回は、 Kivaの事例を交えて、Purpose Drivenの組織づくりのフレームワークとしてよく知られている3Dモデルについて紹介した。本モデル以外にもいくつかのモデルがあるため、それらの効果的な活用を心がける必要がある。

次回は、ウェアラブル端末メーカーである健康を支援する企業「Fitbit」の企業内ネットワークの活用事例を用いて、Purpose Drivenの組織づくりについてさらに探っていく。

・参考文献:
1、2、3 Rey, C., Bastons, M., & Sotok, P. (2019). Purpose-driven Organizations: Management ideas for a better world. Palgrave Macmillan.
4 https://www.kiva.org/about (accessed on 2020-12-22)

 

Copyright© Ideal Leaders Co., Ltd All Rights Reserved. 記事の無断掲載・転載を禁ずる。

 

第4回はウェアラブル健康端末メーカーとして世界シェアNo.1を誇るFitbit社の従業員にPurposeを意識させる取り組み事例を通じて、Purpose Drivenの組織づくりについてさらに探っていきます。

Fitbit社を3Dモデルに適用させた詳細は以上の記事からご覧いただけます。

パーパス・ドリブンな組織づくり②についての記事はこちらから。

配信希望はこちら

本連載や、その他記事、イベントの最新情報などをメルマガにて配信しています。

配信を希望する方はぜひ下記をご覧ください。

■私たちについて

人と社会を大切にする社会を増やします

POPULAR ARTICLES

人気の記事

パーパスに関する意識調査レポートを公開しました

パーパス(Purpose 存在意義)を策定した企業の従業員を対象に、パーパスが行動や意識に与える影響・課題について実態調査を行い、レポートとして公開いたしました。パーパスとは「なぜその企業がこの世に存在するのか」の答えとなる、企業の存在意義を意味するものです。組織としての一貫性のある戦略や一体感を得るため、パーパスを策定・ 実践する企業が増えています。パーパスに関する調査は海外が先行しており、日本国内を対象とした調査がほとんど存在しないことから「パーパスに係るアンケート調査」を実施しました。…

OTHER BLOG

その他の記事