私たちが知っている世界は変わりつつある。企業は収益だけではなく、Purposeの価値を認識し始めている。Purpose Drivenなイノベーションが生まれてきていることにより、企業は自分たちのコアバリューに目を向け、真の意味で社会にポジティブな影響を与えようという動きが出ている。
高次のPurposeを持った企業では、イノベーションや収益の成長が起こりやすいとされている。Purposeの浸透した組織では、一貫した軸に沿って、開発や革新へドライブがかかりやすいからである。ハーバード・ビジネス・レビューのレポートによると、自社に明確なPurposeがあるとした経営者の53%がイノベーションを伴う取り組みに成功していると答えているのに対し、Purposeが策定されていない企業では成功していると答えた割合は19%となっている。
では、Purpose Drivenなイノベーションとはどのようなものだろうか?Purpose Drivenなイノベーションは、社会的なインパクトを生み出すことに焦点を当てている。つまり、金銭的な利益だけではなく、Purposeに沿って、人々や社会にとって良いことであるかという軸を持っているものである。これは数年前から顕著な傾向である。ちなみに、2018年には、ヨーロッパだけでも、新しいスタートアップ企業の4社に1社がソーシャルビジネスだった。
今回からは、Purposeとイノベーションによって事業を成長させた事例を紹介していく。
ユニリーバ
ユニリーバは消費財を扱う企業として「サステナビリティを暮らしの当たり前に」をPurposeに掲げ、積極的にPurposeを意識したビジネスを展開している。例えば、プラスチックのパッケージが及ぼす影響を意識し、完全廃止へ向けた技術革新のパイオニアとして主導していることが挙げられる。また、「ゴミを出さないショッピング」を提唱するLoopという企業と提携し、商品が消費者に届けられたあと、返送された容器にリフィルが行えるといった商品開発を行っている。また、健康的な生活のため消費者からも需要の高い、天然成分を含んだ食品製品の開発にも積極的で、植物ベースの製品は「サステナビリティを暮らしの当たり前に」というユニリーバのPurposeとも一致している。ヴィーガン向けの製品や乳成分を含まない製品も展開されており、例えばMagnumというユニリーバのブランドでは、乳製品を摂取できないヴィーガン向けのアイスクリームが販売されている。2016年には、ユニリーバの世界のアイス市場のシェア率は第1位となっていた。
レゴ
レゴは1990年台後半、世界有数の玩具会社となったものの、テレビゲームや他の玩具のシェアが伸びたために、2003年には倒産寸前になるなど危機的状況に陥った歴史がある。設立者であるオーレ・キアク・クリスチャンセンは「Only the best is good enough.(邦訳:最高のものこそ価値がある。)」という価値観に忠実すぎたため、顧客である子供たちのニーズに応えられていない状況であった。レゴは現在、「ひらめきを与え、未来のビルダーを育もう」をPurposeとして顧客とのコミュニティを形成し、ファンがアイデアを発信できる参加型プラットフォームを創りあげている。顧客の意見を元に商品開発を行うようにするという、イノベーションのオープン化によってブランド力を取り戻し、ビジネスを逆転させている。
スターバックス
世界中に展開するコーヒーチェーンである同社は、2008年には前期比純利益が53%減という業績不振となり、創業者であるハワード・シュルツ氏がCEOに復帰することとなった。シュルツ氏はPurposeを「To inspire and nurture the human spirit: one cup, and one neighborhood at a time.(邦訳:人々の心を豊かで活力あるものにするためにーひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから)」とし、Purposeに照準を合わせた方針を打ち出した。例えばインスタントコーヒーという新規市場に参入する方針、店舗の従業員が顧客体験において重要な役割を担っているという信念から、ストアマネージャーへPurposeを伝えること、バリスタへの研修などが行われた。こうした取り組みの結果、10年で同社の株価は13倍となった。
ネスレ
ネスレは1886年アンリ・ネスレによって創業された歴史あるスイスの会社である。当時の欧州は乳幼児の栄養不足による死亡率が非常に高く、これを見かねたアンリ氏がミルクと小麦粉に砂糖を混ぜて作った乳児用製品「粉ミルク」を作ったことがネスレ事業の始まりである。ネスレは長期的な視座に立って、経済的価値と社会的価値を創造することに重きを置いており、「Enhancing quality of life and contributing to a healthier future(邦訳:生活の質を高め、さらに健康な未来づくりに貢献します)」がPurposeとされている。
ネスレは日本に進出したあと、多くの企業がそうであったように、バブルの影響を受けている。バブル崩壊後の日本では核家族化による家族でコーヒーを飲むことが少なくなるなどの問題点があった。一方で職場においてコーヒー需要が高まったことを受け、コーヒーマシンの利用料を0円にし、マシンで使うコーヒー豆の売上で利益を上げるという、マシンメーカーでは不可能な販売方法をネスレではとることができた。同社は世界で一番コーヒー豆の買い付けが多い企業であり、この立場が「生活の質を高め、さらに健康な未来づくりに貢献します」というPurposeのもと、適正価格のでのコーヒー豆の調達や現地の子供達の学習支援などにつながり、多くのCSR活動、SDGsに貢献することに結びついている。
最後に
すべてのビジネスは営利企業として生き残るために利益を上げる必要がある。しかし、様々な社会課題があふれ、企業としてステークホルダーへの責任が一層増す中、Purposeに沿って事業を推進し、イノベーションを生み出すことで効果的に利益を上げることができるともいえるのである。
今こそ、企業がよりPurposeを持って持続可能なイノベーションの目標を設定することを考える時期に来ているのかもしれない。
私たちアイディール・リーダーズは、組織や従業員のPurpose策定・浸透の支援をし、様々な企業の成長に関わる機会に恵まれている。今後さらに、Purpose Drivenなイノベーションを増やすための支援をしていくことができれば幸いである。
今回はPurpose Drivenなイノベーション事例についてまとめた。次回もPurposeに関わる記事を紹介していく。
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