SAPはドイツ発祥の多国籍エンタープライズソフトウェア企業であり、売上高はマイクロソフト、オラクル、IBMについで世界第4位、特に大企業向けのERPにおいては圧倒的なシェアを保持している。従業員の幸福にコミットすることでビジネスを成長させてきたと言えるSAPは、2020年にはフォーブス誌による「多様性施策に優れた米国の職場ランキング2020」にて1位を獲得するなど、従業員や労働環境に関する多くの賞を受賞している。
また、SAPは毎年Business Health Culture Index (BHCI)と名づけ、従業員の生産性やエンゲージメントを分析し、いかに幸福につながっているかを調査している。この指標は従業員が健康でバランスの取れた状態を保つための文化的条件を測定するもので、SAPが今どの程度まで望ましい職場環境を提供できているのかを示すものでもある。2009年から始まったこの取り組みは、オンラインによる従業員調査の結果をもとに集計され、73%の回答率を得ている。
これらのデータからSAPは統合レポートにおいて、財務指標(=業績)と非財務指標(エンゲージメントやパーパス)の因果関係を数値化、文書化できるようになり、幸福への取り組みがビジネスパフォーマンスに関係していることを証明している
2018年の統合レポートによると、BHCIが1%向上することで営業利益が9,000万ドル〜1億ドル変化するとしている。2013年は69%であったBHCIが2018年には78%となり、大きな影響をもたらすことがわかっている。また、従業員満足度が1%上昇すると5,000万ドル程度の利益の上昇に相当するとしている。
今回は、ウェルビーイング経営と業績の関連性の視点から、SAPの取り組みを紹介する。
1.社員重視
SAPではメンタルヘルスのケアを重視しており、従業員とその家族に対して24時間無料の電話によるメンタルヘルスサポート、出張中の医療やセキュリティサポート、エグゼクティブやリーダー向けの健康的な文化を育むためのプログラムなど、多様な角度での取り組みを行っている。また、SAPの最高経営責任者、取締役会、現場のマネジャーは、従業員の福利厚生を経営の最優先事項としている。
SAPで10年間CEOを務めたビル・マクダーモット(Bill McDermott)氏は2019年にこう語っていた。「チームの心身の健康は最も重要である。社員が心身健康でなければ、他のすべてのことが影響を受けてしまう。私はSAPの皆さんが幸せになって、力づけられ、わくわくするような仕事をすることを願っている。この会社で働いている人こそ、会社が最も大事にしているものである」
2.ボランティア活動の推進
それ以外、ボランティア活動の推進も、従業員個人が社会へプラスの影響を与えていると自覚できるよう支援することで仕事に意義を見出すようになり、結果として職場環境の向上、ストレスの軽減、幸福感を与えることにつながるとしている。