ウェルビーイング経営 ー 第1回:社員幸福度をどう高めるか?

ウェルビーイング経営 ー 第1回:社員幸福度をどう高めるか?

ウェルビーイング経営の要素の一つである社員ウェルビーイングと企業業績との関係に関する研究が近年増えている。最近のCIPDの調査によると、イギリスの職場での長期欠勤の2つの原因は、メンタルヘルスの不調とストレスであると言われている。また、それらは社員が仕事を辞める理由の一つにもなっている。なお、仕事のストレスの原因は:仕事の量が62%、上司のマネジメントスタイルが43%、職場の人間関係が30%を占めていることがわかっている。

今回の記事では、様々な研究結果を使いながら社員幸福度を高めることのメリットと社員幸福度を高める方法を紹介する。

1.社員幸福度を高めることのメリット

生産性が高まる

「Happiness and productivity. Journal of Labor Economics」によると、調査にランダムに選ばれた個人が幸せになったことで、生産レベルが約12%上昇するという結果になった。また、幸福度が低いと生産性が低下することも判明し、幸福度とパフォーマンスには因果関係があると結論づけている。

離職率が抑えられる

会社経営を成功させたいと考えているなら離職率を抑えなければならない。全体的な離職率が少ないことは会社にとって有意義で、離職率が抑えられないと専門知識の喪失に伴うコストや、新入社員の採用・育成が必要となることで、大きな損失となる可能性がある。

 「Do Happier Employees Really Stay Longer?」によると、社員が満足感と幸福感を感じるほど、辞める可能性は低くなる。さらに良いことに、この関係は時間が経てば経つほど強くなっていくと解明している。

幸せは強力なモチベーション

社員が最高のパフォーマンスを発揮するためには、強力なモチベーションが必要になるが、「Hapiness as a Motivator: Positive Affect Predicts Primary Control Striving for Career and Education Goals」によると、個人が重要な目標を達成しようとするときに、時間を割いて努力を惜しまないモチベーションの背景には何があるのかを研究した結果、ポジテイブな状態で働くと、目標を達成できると信じる確率が高まり、目標を達成するために時間と労力を費やし、課題を乗り越えようとする意欲が高まると解明している。

幸せなリーダーは、より多くの変革をもたらす

「Do Happy people lead better?」によると、357人の管理職を対象とした研究では、リーダーのポジティブな気分の状態が変革的リーダーシップとどのように関連しているかを研究した結果、職場でよりポジティブな感情を経験しているリーダーほど、社内で変革的な役割を果たす可能性が高いと解明している。

幸せは職場とキャリアの成功を促進する

以前は、人は仕事で成功してから幸せになると思われたが、「Do Happiness Promote Career Success?」では、「人は実際に仕事で成功しているのは幸せだからなのであろうか?」と疑問を抱え研究していた。研究の結論は、第一に、幸福感は、個人の仕事の自律性、仕事の満足度、仕事のパフォーマンス、利他的行動、社会的支援、社会的影響力、収入などと正の関係があることが分かった。また、幸せな人は同僚や上司に肯定的な評価を受け、離職することが少なく、今後のキャリアを成功しやすいことが示唆されていた。そして、ランダムにポジティブな感情を経験するように割り当てられた人は、より協力的に交渉し、より高い目標を設定し、自分自身、困難な仕事に長く耐え、自分や他人をより好意的に評価し、助けて合う気持ちが高まり、他の人よりも多くの創造性と好奇心を発揮するということを解明している。

2.社員幸福度を高める方法

では、社員幸福度はどうやって高めるか?「The Business Case for Happiness」によると、社員幸福度を高めるためには、4つのステップが必要であると主張している。

金銭的レベルを超えるPurposeを作る

社員にボランティアに参加してもらい、「我々はお金を稼ぐだけではなく、社会に貢献している」と実感することで、社員幸福度が上がること解明している。

例を挙げると、米国の大手製薬会社であるファイザーは、自社のPurposeの中で「より健全な世界のために共に努力する」ということを強調した。このPurposeはより高い目標に向かって努力し、社会奉仕をしていることを社員に感じさせることができた。「私たちは協力して、病気を治癒し、もっと健康な世界に貢献していく」ことは社員のやりがいに繋がるとわかった。

また、家の再建、学校の活動、あるいは災害の救援などのボランティア活動に参加することは、新たな体験を提供することができると言われている。自分の居心地の良い機会自分の居心地の良い機会、興奮、誇り ― これらは、幸福の有力な要因である。

自主権を与える

二つ目は、会社にも、社員にもメリットがあると思ったらそれを選択することができるように自主権を与えることである。タスクフォース・マネジメントソフトウェアを開発している企業アサナは、職員1人当たり1万ドルを自由にオフィスデスクの購入に使っている。社員たちは自分の好きなデスクを購入することで、居心地よく働くことができ、会社にとってはある程度の自主権を与えることで、社員のモチベーションが高まり、自社の雇用ブランディングに繋がる。また、社員自身がしたいスキルアップに応じて、マネージャーやコーチング講師を選ぶことも可能となっている。

また、Googleの場合は、社員に20%の時間を自分にとって面白く、有意義な仕事をすることを推奨し、社員は、会社にとって重要であると思うプロジェクトに時間をかけたり、そこから個人的な満足感を得たりすることができる。Googleはこの20%の時間で社員を楽しませることを目標とし、残りの80%の時間はサービスの生産性を向上させ、製品や特性の開発を推進することを企図した。この施策により、最終的にはGmailや他の関連製品が開発された。

また、注目を集める靴のネット通販会社ザッポスは社員が自分の給料に対して一定のコントロールが可能な制度を設けている。社員はザッポスが習得することを奨励している「スキル」を20個身につけたら、会社はスキルごとに小幅な昇給をしている。このように自主権を与えることは、社員幸福度に繋がると思われる。

有意義な人間関係を作る

社員同士の有意義な関係を構築することは、幸福度に大切な因子である。その一例がアメリカのベビー用品店Baby Centerである。この会社は妊娠中に母親たちを指導し、数百万人の顧客のためにオンラインで対面型のコミュニティを作った。6週間ごとに3日間、社員に会社を休ませ、Baby Centerイノベーションデーに参加してもらい、始まりのピザ・パーティーと終わりのセレモニーでBaby Centerのスタッフは部門を超えてコミュニケーションを取ることができた。これまで一緒に仕事をしたことのない人たちと仕事をすることで、エネルギーを溢れた職場を作り、継続的かつ有意義な関係を築いてきた。

また、社内の社員同士の繋がりを築くために、前述のザッポスは社員に仕事の外での社交活動を促し、社長たちは10〜20%の時間をかけて彼らのチームメンバーと一緒にいることを主張している。

社員の価値を大事にするカルチャーをつくる 

社員の価値を大事にするカルチャーをつくるするということは、4つ目の幸福度向上の原動力となる。アメリカの運輸会社ケルマー・セーフティは、お客様から運転手に賞賛、あるいは感謝の声が寄せられたら、その言葉を必ず運転手に伝えることを推進している。こうして社員を重視することで、団結、友好、協力という企業カルチャーができ、社員幸福度が高まると思われる。

また、Googleはインセンティブやボーナスなどの項目を通じて、社員に自分の価値を感じてもらうようにしている。社員のキャリアアップを促進するための強化プログラムも提供し、社員が会社と一緒に個人の成長を体験できることを推進している。

今回の記事では、様々な研究結果を使いながら社員幸福度が高めることのメリットと社員幸福度を高める方法を紹介した。次回は、自分自身のウェルビーイングを高めるためにどんなことをすればよいのかを探っていく。

 

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参考文献

  1. CIPD (2019). Health and Well-being at Work Survey 2019.https://www.cipd.co.uk/Images/infographic-health-and-wellbeing-2019_tcm18-56171.pdf(assessed on 2021−04−02)
  2. Oswald, Andrew J., Proto, Eugenio and Sgroi, Daniel. (2015). 『Happiness and productivity. Journal of Labor Economics』, 33 (4). pp. 789-822. https://wrap.warwick.ac.uk/63228/7/WRAP_Oswald_681096.pdf  (assessed on 2021−04−02)
  3. DAVID C. WYLD Southeastern Louisiana University(2014). Do Happier Employees Really Stay Longer?https://www.researchgate.net/publication/276183376_Do_Happier_Employees_Really_Stay_Longer(assessed on 2021−04−02)
  4. Claudia M. Haase , Michael J. Poulin , and Jutta Heckhausen(2012). Happiness as a Motivator: Positive Affect Predicts Primary Control Striving for Career and Education Goals. https://socialecology.uci.edu/sites/socialecology.uci.edu/files/users/heckhaus/j65_haase_poulin _heckhausen_pers_soc_psychol_bull_2012.pdf (assessed on 2021−04−02)
  5. Sirkwoo Jin, Myeong-Gu Seo, Debra L.Shapiro(2016). Do happy people lead better?https://pdfs.semanticscholar.org/4f04/5e8a785350b4ac68ef9d8fef963da49b44ae.pdf  (assessed on 2021−04−02)
  6. Lisa C. Walsh, Julia K. Boehm, Sonja Lyubomirsky(2018). Do Happiness Promote Career Success? Revisiting the Evidence. http://sonjalyubomirsky.com/files/2012/09/Walsh-Boehm-Lyubomirsky-2018-1.pdf  (assessed on 2021−04−02)
  7. Jennifer Aaker, Sara Gaviser Leslie, Debra Schifrin.(2012). The business Case of Happiness.https://www.gsb.stanford.edu/faculty-research/case-studies/business-case-happiness  (assessed on 2021−04−02)

>> 連載第2回『仕事で自分自身のウェルビーイングを向上させる7つのヒント』についてはコチラ

 

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