2030年の未来の社会・企業の姿”を描き出す「21世紀未来企業プロジェクト」で描いたシナリオについて、全5回のシリーズでご紹介します。
2015年10月~2016年2月を活動期間とした「21世紀未来企業プロジェクト」のテーマは、“不確実な未来への準備として2030年の社会・企業・人のあり方を考える”。
2030年にはどのような社会が訪れるのか、そこで賞賛され、生き残る企業とはどのような企業か、そうした企業のもつべき価値観とは何かをマルチステークホルダーで共に考え、その成果を『2030年の社会・企業の4つの未来シナリオ』として統合。未来に起こりうる4つの世界に関して、シナリオ化とビジュアル化を行いました。
シナリオを導き出す上で、立脚したのは「未来に影響を及ぼす根本要因は何か」ということ。テクノロジー、サステナビリティなど世界を動かしうる6領域の膨大なトピックスから、“ほぼ確実に起こること(※)”と“起こるかどうかは不確実だが起きた場合にインパクトが大きいこと”を抽出。その中で、不確実かつインパクトが大きい二つの要因として、<企業経営のものさしの変化>と<働き方の変化>に着目ました。この二つの変化の組み合わせ方によって2030年に起こりうる4つの世界のシナリオを描き出しました。
(※日本の人口減少、グローバル化、資源危機リスク、自然災害リスク、AIやロボットなどテクノロジーの進化等)
「シナリオ」とは、「必ずこうなる」といった、いわゆる“未来予測”とは異なります。すべてのシナリオが起こりうると想定したとき、私たちはどうするか?を想起させる“問い”と言えるかもしれません。
これから、4つのシナリオを具体的に紹介します。
<2030年の社会・企業シナリオ① 三すくみシナリオ ~失われた半世紀~>
閉じる政府、利益を求める企業、画一的な市民
高齢化社会と「20世紀型労働」神話の維持
安定的な雇用へのニーズは根強く、転職や起業を積極的に志向する人は少なく、ジョブ型雇用や兼業(副職)、リモートワークやワークシェアリングといった自由な働き方を求める声は小さい。
「五輪ロス」と日本企業の構造的弱体化
企業においては、株主と短期的収益を重視するものさしが中心的に機能。短期視点での経営に偏っていた企業は「五輪ロス」により経営難に陥っている。一方で、 解雇規制が厳しく、リストラも限界。社員平均年齢は高くなるばかりだ。
イノベーション後進国・日本の「失われた半世紀」
働き方の自由・多様性・テクノロジーなど土壌づくりの面で立ち遅れた日本は、 イノベーション後進国に転落している。
「三すくみ」の社会
一方、政府は、年金支払い費用・医療費で毎年巨額の財政赤字。政府・企業・市民の各セクターがビジョンを共有しないまま、自己の行動を最適化しようとした結果、「三すくみ」 状態によって構造改革が阻害されている。
コメント
シナリオ策定メンバーの間では、「現在の状態に近いのでは!?」「個人的には安定していて住みやすい世界かもしれない」といった感想がありました。
<2030年の社会・企業シナリオ② 個の台頭シナリオ ~大格差の発生とニッチの台頭~>
負担が増加する政府、利益を求める企業、格差が広がる市民
テクノロジーによる「働き方のシフト」と「消える職業」
個人が時代の変化をリードする社会。「テクノロジーの発達」が個人の働き方をエンパワーメントし、働き方の多様化が拡がる。常にライフスタイルを更新しようという志向があるミレニアル世代の影響力も大きくなっている 。一方で、ロボット技術やAI技術で代替され消える職業も。
オープンで柔軟な雇用制度・人事制度
企業も、女性、シニア、中途採用、ジョブ型雇用等多様性ある人材を活用。また、解雇の規制も緩和され、成長分野への柔軟な人材配置が進む。
近視眼的”経営と個人起点イノベーション
企業の長期視点やサステナビリティへの志向は薄く、短期的収益・株主志向。イノベーションを生み出すのはテクノロジーを駆使した個人である。
電気羊が人間を喰い殺す” 大格差の時代
「就労格差」が増大し、個人の力の差がより顕著に表れる弱肉強食の時代。また、財政負担は増大、格差の拡大と社会保障制度危機が時代の一大テーマとなっている。
コメント
Ideal Leadersでは、オープンで柔軟な働き方を進めています。そういう意味では、シナリオ②を少しだけ先取りしているのかもしれません。
みなさんの会社ではどうですか?
<2030年の社会・企業シナリオ③ 企業の目覚めシナリオ ~超国家CSV企業主導の社会〜>
黒子の政府、利益と持続可能性の両立を求める企業、従属する市民
世界食料危機の勃発
食料価格が暴騰し、大規模な自然災害が発生。サステナビリティを求める消費者の声が国際世論として拡がる。
経営の最大課題は「持続可能性」に
資源調達危機・事業継続危機が眼前となり、自然資本や多様なステークホルダーに配慮しながら営利活動を行う企業のみが受け入れられるように。「社会的価値」が重視され、長期的視野で研究開発や新分野・新市場の開拓に取り組む企業も増加。
現代の黒船…「超国家CSV企業」
国家の枠組みを超え活動し、影響を及ぼす巨大なグローバル企業が登場。一方資源調達危機・事業継続危機を乗り越えられず破綻する企業も増加し、M&Aも活発に。
新しいゲームのルール…国際デファクトの確立と展開
超国家企業および国際機関が、調達や会計に関する新たなルールを確立、日本に強硬に主張してくる。
次世代型リーダーの台頭と“笛吹けど踊らず”の苦悩
新しい企業の経営のあり方へ舵を切る次世代型リーダーが登場する中、労働市場の流動性は低いまま、弾力性のない人材市場、慣行にひたる企業風土や個人資質が浮き彫りに。 リーダーだけが掛け声をかけても組織は動かずの状況。
コメント
シナリオ③では、企業経営が、短期的な利益追求ではなく、持続可能性や社会的価値に重きが置かれる世界として描かれています。この世界に住んでいるとしたら、みなさんやみなさんの会社はどう行動しますか?
<2030年の社会・企業シナリオ④ クワトロ・ヘリックス・シナリオ ~4セクターの相乗効果で、21世紀型社会へ~>
政府・企業・市民に加え、アカデミアの役割が増大、4つのセクターが協働する社会
変化の季節…セクター共創ムーブメントと「危機の2020年代」
「五輪ロス」で大量の失業者が生まれ、大規模な反格差運動が起きる中、アカデミアからの発起により、政府と経営者団体、市民代表の間で対話の場と合意が実現。以降 「フレキシキュリティ(※)」モデルの労働市場政策が敷かれるように。 また、2016年の18歳選挙法の施行を契機に市民の政治参加意識が向上した。
「クワトロ・ヘリックス」型社会
企業セクター、政府セクター、アカデミアセクター、市民セクターという4セクターがひとつの未来ビジョンを共有し、民主主義的な合意形成をはかりながらイノベーションを生み出している。
イノベーションとサステナビリティを両立する21世紀型企業
企業は、時間的、場所的、組織的制約を超えて多様なプレーヤーと協働しており、長期的な事業継続可能性とマルチステークホルダーの包摂がミッションに。労働関連法制も変化し、多様な働き方が実現している。
ふたたび、日出づる国へ
一方、大量の“埋もれる中間層”が発生することは避けられない、「自己責任」の時代でもある。しかし、人口減少の時代に「ミドルパワーをいかに効率的に、イノベーティブに発揮するか」という発想の転換が起きている。
※フレキシビリティ(柔軟性)とセキュリティ(安全性)を組み合わせたことば。雇用の柔軟性を保ちながら、失業保障によって労働者の生活安定をはかり、かつ就労に向けた再教育を行う雇用施策。デンマークで導入され、効果が得られているとされる。
コメント
シナリオ④では、「企業経営のものさしが多様」かつ「働き方も多様」な世界です。理想的な世界のようにも見えますが、一方で、個人個人の自立が求められる、厳しい社会とも言えるかもしれません。
みなさんはどう思いますか?
ここまで、2030年の社会・企業シナリオをシリーズでご紹介してきました。
シナリオはいずれにもチャンスとリスクがあり、色々と考えさせられますが、実際に未来を創っていくのは私たち一人ひとりの明日からの行動です。2030年に向けて、どう生きるかのヒントにつながっていれば幸いです。
なお、今年のプロジェクトでは、このシナリオとさらなるインプットをもとに、自社の戦略を考える異業種交流型のプログラムを企画しています。ご関心のある方はお問い合わせください!