仕事におけるパーパス – 第1回 パーパスとは何か?

仕事におけるパーパス – 第1回 パーパスとは何か?

パーパスとは?

「パーパス」という英語からどんな言葉を連想するだろうか。
目的、意図、決心、使命、趣旨、信念、意義、展望……

様々な訳が存在するが、本記事ではあえて特定の和訳ではなく「パーパス」という言葉を使いたいと思う。

なぜなら、「パーパス」という言葉が内包する意味はそれだけ幅広く、上記のどれにも特定されない「パーパス」という新たな概念を築いているからである。

実際、「パーパス」に関する研究は近年増加傾向にあり、また、ビジネスの現場においてもパーパス経営に対する関心は高まる一方である。

なぜこんなにも「パーパス」が注目を集めているのだろうか。
それは、このVUCAワールド(予測可能性が低く、混沌とした時代)において、企業が困難に直面したとき、あるいは岐路に立たされた時の揺るがない軸となる存在だからである。

私たちアイディール・リーダーズは、国内外の多様な文献・ケーススタディから、「企業のパーパスの本質的意義」に改めて着目し、情報提供を行いたいと思う。

第1回となる今回は、パーパスの定義について紐解いていく。

パーパスの定義

まず、パーパスの本質を理解するために、ミッション、バリュー、ビジョンなどの類似したキーワードとの違いについて考察を述べる。各社の定義はそれぞれであるが、今回は、一般的な定義として、オーストラリアのコンサルタント、グラハム・ケニー氏(Graham Kenny)の定義を紹介する。

【ミッション】
マネージャーとスタッフの「目的」に焦点をあてたもの。現在と将来でどのようなビジネスが組織に含まれているかを示すもの。

【ビジョン】
組織が何年後にどのような姿でありたいかを表す。「こうありたい」という姿。

【バリュー】
望まれる組織風土・文化

【プリンシパル】
バリューを実現させるための具体的な原理(バリューがコンパスなら、プリンシパルは具体的な指示となる)

また、かの有名なSouthwest AirlineのPurposeドリブンマーケティングプログラムを編み出した現GSD&Mの会長であるロイ・スペンス氏(Roy M. Spence)は 「Power of Purpose」の中でミッション、ビジョンをこのように定義している:

【ミッション】
掲げたPurposeを実現するための戦略(Mission is that tactical plan for achieving that purpose)

【ビジョン】
Purposeを実行した後の世界がどう見えるかを表したもの(Vision is how you see the world after you have executed your purpose)

また、『BCG 次の10年で勝つ経営・企業のPurpose(存在意義)に立ち還る(2020)』の中で、Purposeを以下のように定義している:

【ミッション】
企業が目指す状態に向けて何を行うべきかという方向性、すなわち「What」を定義する。

【ビジョン】
将来の構想・未来像であり、企業が理想とし目指す状態である「Where」を定義する。

【Purpose】
その企業が世の中に存在するのかという意義を問う「Why」を結晶化したものである。

言い換えれば、Purposeは「製品を作り・売る、サービスを提供することを超えて、わが社は、なぜ社会で存在する価値があるのか」「もしわが社が消滅したら、世界はかけがえのない何を失ってしまうのか」といった企業固有の存在意義を包含する

上記のように、パーパスとはビジョンやミッションとは似て非なるものであると考えられる。

また、アイディール・リーダーズでは、パーパスには「未来型パーパス」と「過去・現在型パーパス」の2種類があると考えている。

*弊社が考えるパーパスの定義に関する詳細については、以下のページにて紹介している。

未来型パーパスの定義に関する記事はこちら

パーパスは「外に向けられた矢印」

では、「パーパスは上記のビジョンやミッションなどの類似キーワードとどのように関連するのだろうか。

グラハム・ケニー氏は、パーパスを、「社員やスタッフが良い仕事ができるように、組織がビジネスの対象となる顧客(企業の場合)や、学生(学校の場合)や、患者(病院の場合)の生活にどんなインパクトを与えられるのかを‪明確に表現するもの」と言い換えている。

すなわち、パーパスとは、内側に向けられたものではなく、組織の外側への影響と深く関わりを持つものだとしているのだ。また、ロイ・スペンス氏(Roy M. Spence)は「Power of Purpose」の中でこう語っている:

If you have a purpose and articulate it with clarity and passion, then everything makes sense and everything flows.

パーパスを掲げ、明確さと情熱をもって忠実に実行すれば、世の中のことはすべて明快となり意味づけが可能となる。

すなわち、パーパスを設定することで、個々のビジネスや個人の目標を超えた意味づけが可能となり、企業の活動に、世の中の事象との繋がりにおける意義が見出せるということである。

さらに、オハイオ州にあるシンシナティ大学のHollensbeでは、ビジネスにおけるパーパスとは、

“to promote the well-being of society and individuals within and outside of business”

ビジネス内外の社会と個人のウェルビーイングを促進させることを目的に設定されるもの

と定義している。
この定義からは、「組織がなぜ、そして誰のために存在するのかを示したもの」がパーパスと言えることがわかるだろう。

パーパスにおける2つの原則

このように、様々な定義を突き合わせて見てみると、共通して見えてくる原則がある。

 

1) パーパスとは、企業と世の中を結ぶもの

パーパスとは企業が組織外に向けてどう貢献していくかを明示するものであり、「社会的意義」が含まれる企業のパーパスを設定することによって、企業と世の中は結ばれるのである。

たとえば、大手飲料メーカー、コカ・コーラのパーパスは

“To refresh the world and make a difference.”

世界中をうるおし、さわやかさを提供すること。前向きな変化をもたらすこと。

アメリカの大手小売店、ターゲットのパーパスは

“To help all families discover the joy of everyday life.”
すべての家庭が日常のなかに喜びを見つける手助けをする。

大手電機メーカー、ソニーのパーパスは

“Fill the world with emotion, through the power of creativity and technology.”

クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。

これらのパーパスに共通しているのは、企業内あるいは個人ではなく、広く捉えた「世の中」を対象としているということである。
したがってパーパスとは、企業と世の中を結ぶものだと言えよう。

 

2)パーパスとは、決して達成されないもの

 

また、上記に挙げたパーパスに共通するのは、「パーパスとは、決して達成されないもの」であるということだ。

グラハム・ケニー氏は「パーパスが完全に実現されることがないという事実があるからこそ、組織は決して進化と変革を止めてはならないということだ」と述べている。

上記に引用した3社のパーパスをみても、完全に達成されることは不可能に近いと言えるだろう。だからこそ、企業の揺るがない軸として進化し続ける原動力となるのだと考えられる

また、高い目標のニュアンスが込められているパーパスであるからこそ、現状に対する「クリエイティブ・テンション」がかかり、組織を変革する意欲が生まれると考えられる
(変革を生む「未来型パーパス」の解説はこちらのページを参照)

本記事では様々な文献によって明らかとなったパーパスの共通する性質について記載した。今後、様々な角度から仕事におけるPurposeに関した知見を掘り下げていく。

参考文献

・Kenny, G. (2014). Your Company’s Purpose Is Not Its Vision, Mission, or Values. Harvard Business Review.
https://hbr.org/2014/09/your-companys-purpose-is-not-its-vision-mission-or-values
(日本語版:https://www.diamond.co.jp/magazine/059690319.html

・Jill, R. (2020, June 1). Power of purpose:Companies with a strong purpose not only make more money and have more fun, they’re poised to come through this economic turmoil on top and attract the best of the new workforce. American Executive Business Insights: Essentials

・『BCG 次の10年で勝つ経営 企業のパーパス(存在意義)に立ち還る』 ボストン・コンサルティング・グループ編著 日本経済新聞出版

・Hollensbe, E., Wookey, C., Hickey, L., & George, G. (2014). From the editors: Organizations with purpose. The Academy of Management Journal. Vol.57, no.5.

・『丹羽真理. (2018). パーパス・マネジメント:社員の幸せを大切にする経営』 株式会社クロスメディア・パブリッシング

https://www.cocacola.co.jp/company-information/company-mission

https://corporate.target.com/about/purpose-history

https://www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/purpose_and_values/

 

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