朝日新聞社 新時代の総合メディア企業としての存在意義を見つめるパーパス共鳴プロジェクト

朝日新聞社 新時代の総合メディア企業としての
存在意義を見つめるパーパス共鳴プロジェクト

株式会社朝日新聞社 メディア事業本部

株式会社朝日新聞社 メディア事業本部

https://www.asahi.com/corporate/

1879年に創業した日本の五大新聞社の一社。新聞をはじめ、書籍や雑誌の出版、各種Webメディア事業も手がけている。グループ会社のビジネスには広告事業や放送事業などがあり、日本のメディア産業の代表格として長い歴史を誇る。メディア事業本部は、社内のビジネス関連部門を統合して2023年に発足。メディア、コンテンツ、イベント、サービスなど幅広いビジネスを展開している。

話し手
株式会社朝日新聞社 ブランド推進 
エグゼクティブプロデューサー 山盛 英司様
株式会社朝日新聞社
メディア事業担当補佐役 牧野 康英様

※以下インタビュー記事内では敬称略で掲載させていただいております。
※この記事内の肩書き・役職は取材当時のものです。
聞き手
アイディール・リーダーズ株式会社

ご依頼の背景

株式会社朝日新聞社様では、2023年9月に新たなパーパスとビジョンを制定し、2024年度から始まる中期経営計画はこのパーパスに基づいて策定されました。比較的多くの社員がパーパスに共感を示したものの、具体的にどう行動すればよいのかに戸惑う声があがっている状況でした。

そこで、パーパスを自分事として捉え、部下育成にも役立てるためのワークショップをメディア事業本部の部長層向けに実施。その後は、参加者がワークショップの内容を持ち帰って自部門で価値観を考える対話を行うなど、現場での自主的な共鳴・浸透行動が少しずつ広がっています。

今回は、本プロジェクトを企画・実施した山盛様、牧野様に、取り組みの背景や内容、成果や気づきなどを伺いました。

パーパス浸透のワークショップを実施することになった背景を教えていただけますか?

新たなパーパスに基づいて策定された中期経営計画を実行するにあたり、現場の要となる部長層がパーパスを自分事化する必要があった。会社の節目などのタイミングではない、平時に制定したパーパスだからこそ、その意味合いを考えるプロセスを丁寧に踏むことを重要視した。

山盛

2023年9月に制定したパーパスとビジョンを社内へ浸透させるにあたり、現場の要となる部長層がパーパスを自分事にする必要がありました。

山盛

朝日新聞社には、第二次世界大戦後の1952年に制定され、民主主義を支えてきたメディアとしての基本精神である「朝日新聞綱領」があります。それから時は流れ、メディアが多様化し、SNSによる個人の発信者の影響力が高まり、さらにはAIも発達する中で、我々のような歴史あるメディアに対する期待は大きく変わってきています。そこで、これからの時代における朝日新聞グループが目指すものを言葉にしたいと考え、パーパスとビジョンを制定しました

このパーパスとビジョンは「朝日新聞綱領」の精神に則り、ジャーナリズムがこれまで果たしてきたこと、そして今後取り組んでいきたいことをグループ全体へ広げていく意味合いがあります。

パーパスを社内へ発表した後、対外的にリリースを出す前に社内へ浸透させることが必要だと考え、インナーブランディングから取り組むことにしました

吉原

対外発表と社内向けの施策を同時並行で行う選択肢もあるかと思います。なぜ、最初にインナーブランディングに着手したのでしょうか。

山盛

新しいパーパスを制定したタイミングが、創刊記念など会社の明確な節目ではなかったためです。「平時」につくられたパーパスだからこそ、その意味合いを社員が深く考えるプロセスが大切だと考えました。また、2024年度から始まる中期経営計画にはパーパスを柱にする方針が出ていたため、経営計画の実行を見据えると、このタイミングからパーパスを社内へ浸透していく必要もあったのです。

吉原

インナーブランディング施策のひとつとして、今回の部長層向けワークショップがあったのですね。実施した背景をお聞かせいただけますか。

山盛

管理職に、自部門の戦略とパーパスを紐付けながらマネジメントすることへの戸惑いがあったことが背景にあります。

パーパスの社内発表後にアンケートを実施したところ、回答した社員の8割強がパーパスに「共感できる」と答えたものの、「業務に具体的に反映できるか」という質問に対しては、4割近くが「思わない」という回答だったのです。外部環境が大きく変化している中で、自分たちの存在意義を見つめ直す必要性を多くの社員が感じていたからこそパーパスに共感したと思うのですが、具体的にどう行動すればよいのかを考える難しさがアンケートから明らかになりました。

その後に社内で実施した管理職研修でも、パーパスの言葉には共感する一方、モヤモヤ感が残るという声が多くあがったのです。そのモヤモヤとは、パーパスに基づいて策定された中期経営計画の実行方法でした。中期経営計画における各部門の戦略をどのようにしてパーパスと紐付けて現場に落とし込み、メンバーをマネジメントしていくかに戸惑っていたのです。

そんな中、朝日新聞社の中でも幅広い事業を展開しているメディア事業本部から、部長層向けにワークショップを実施したいという声が届きました。パーパスを組織全体へ広める、とてもよい足がかりだと思いました。

牧野

メディア事業本部では、各上長とメンバーが2024年度の目標設定面談をするにあたり、部長層がパーパスに共感するだけでなく、腹落ちしたうえでメンバーと目標設定ができる状態にしなければならない、という課題意識がありました。そこで、目標設定面談に先駆けて、部長層がパーパスを自分事にするためのワークショップを行うことにしたのです。

また、メディア事業本部は複数の事業部門が統合してできた歴史の浅い組織です。その影響もあり、管理職によってマネジメントスタイルがまちまちだったので、この機会にパーパスを共通言語にしてマネジメントの底上げをしたいとも考えていました。

なぜ、アイディール・リーダーズにワークショップをご依頼いただいたのでしょうか?

部長層がパーパスを自分事にして、マネジメントに生かすという目的に合致したワークショップの提案があった。また、会社のパーパスを理解するだけでなく、自分のパーパスも見つけて会社のパーパスとの重なりを考える取り組みもあり、得られるものが大きいと感じた。

牧野

部長層がパーパスを自分事にし、部下育成に繋げてほしいという我々の狙いに合致するノウハウをお持ちだったからです。ワークショップの企画にあたっては、他社にもお声がけしたのですが、我々が求めるものとは異なる提案だったため採用を見送りました。パーパスの共鳴に特化してワークショップを企画いただいたのは、アイディール・リーダーズだけだったのです。

また、当社では人的資本経営を推進しており、社員は自律的にキャリアを築いていくことが求められています。マネジメントスタイルも、従来のようにトップダウンで目標を設定する価値観から脱却する必要がありました。この観点でも、アイディール・リーダーズの提案がマッチしていたのです

また、私個人としては、人事部門にいた際に丹羽さんの著書を読んでおり、CHO(Chief Happiness Officer)の考え方に共感していたというご縁もありました。

山盛

人生100年時代と言われる中で、社員が長きにわたる自分のキャリアを考えるにあたってパーパスは大切な存在になります。アイディール・リーダーズの提案内容には、会社のパーパスに腹落ちするだけでなく、自分のパーパスを考える取り組みも入っており、社員にとって得られるものが多いと感じました

また、多くの企業でパーパス策定や浸透を支援した実績があるからこそ、我々の企画に対して率直な意見をいただけることも期待していました。内部のメンバーだけでパーパス浸透策を考えると、当社が大切にすべきことや、軌道修正すべき点にどうしても気づきにくいと思うのです。社内のガラパゴス化に陥らないようにするためにも、アイディール・リーダーズと取り組みをご一緒できてよかったと考えています。

ワークショップはどのような点にこだわりましたか。また、実施した感想もお聞かせください。

パーパスを自分事化することに加え、マネジメントにも取り入れていけるよう、ワークショップの設計を依頼した。実施後は、メンバーに対して価値観を見つめるワークを自主的に現場で行う部長も見られている。

牧野

アイディール・リーダーズへは2つの要望を伝え、ワークショップの設計に反映していただきました。

ひとつめは、自分のパーパスを考えるために価値観を見つめるワークで用いる「価値観リスト」の内容を事前にすり合わせしたことです。メディア企業で働く人がもつ価値観や、部長層がマネジメントをする若手世代特有の価値観を加えていただくなど、当社に最適な価値観リストになるよう、チューニングしていただきました。

もう一点は、部下のマネジメントにパーパスを取り入れられるようにしたいという要望です。ワークショップでは自分のパーパスと会社のパーパスの重なりを見つけ、それをどう体現するかを考えるとともに、パーパスを自部門へ浸透させるためのアクションも考えるよう設計を工夫していただきました

そして、ワークショップで印象的だったのは、丹羽さんのファシリテートです。参加者一人ひとりにしっかり気を配りながら進行していただきました。また、価値観を見つめるワークは、価値観リストを精査したことも功を奏したのか、参加者が前向きに取り組んでいましたね。参加者もこのワークは強く印象に残ったようです。

丹羽

私としても、皆さんに積極的に取り組んでいただいたことが印象に残っています。メディア業界の皆さんは、このようなワークショップに時間を割くよりも、ひとつでも多く現場に出ることを重視しているのではないかと想像していたので、 よい意味で予想が外れました。

牧野

メディア事業本部には、社外のさまざまな方と日常的に接している法人営業などの社員もいますし、このような新しい取り組みを前向きに捉え、興味を抱く傾向があると思います。こうした社員を中心に、ワークショップでよい雰囲気をつくってくれたのかもしれませんね。

山盛

職業柄、相手への好奇心が強い社員は多いと思いますが、コロナ禍によって社内コミュニケーションが制限されていた時期が長く続いていたことも影響していると思います。

価値観を考えるワークでは、「やりがい」を選ぶ参加者が多かったのが印象的でした。私自身、当社の特徴を再認識するとともに、社員のやりがいに応えられる会社づくりをしていかなければならないと改めて感じました。

吉原)ワークショップで行った1対1のインタビューでも、多くの方が相手に共感する姿勢を示して、上手に意見を引き出していたように思います。これもメディア企業である貴社の特徴かもしれませんね。また、熱心にメモを取っている方も多く、今後に生かそうとする姿勢を強く感じました。

自分の内面について社内で話をするのは初めてだという声も多くあがりましたが、お互いの悩みを知ることができてよかった、という感想も多くいただきました。

牧野

アイディール・リーダーズには、当社の目的に沿った進行をしていただいたからこそ、このワークショップを有意義だと感じ、自主的に部門内のメンバーに対して価値観を考える取り組みをする部長も見られています。ワークショップで使った価値観リストが、現場でも活用されていることを嬉しく思います。

ワークショップ実施後、さらなるパーパス浸透に向けてどのような取り組みをしていますか。

全社に横展開する取り組みと、各事業部で現場へ浸透させる取り組みが同時並行で進んでいる。さらに、朝日新聞グループ各社のビジョンを集めたマップも作成し、グループ間の連携を加速させようとしている。

山盛

社内で横展開するためのさまざまな活動が進行中です。社内ポータルサイトにはパーパスの情報を載せるページをつくり、発信活動を続けています。今回のワークショップの開催報告もこのページで行いましたし、他部門へ横展開するための資料も掲載しています。

また、ブランド戦略のチームによる「パーパス・カフェ」という社内向けの情報発信も定期的に開いています。ランチタイムにオンライン上で、さまざまな部門の社員がパーパスにまつわる取り組みを共有するものです。ワークショップの参加者が自部門でメンバーと価値観を考えた取り組みや、自分のパーパスを考えるための資料もパーパス・カフェで紹介しました

山盛

これらの横展開と同時に、各事業部ではパーパスに基づいた目標設定が行われ、現場への浸透が少しずつ進んでいます。パーパスを起点にするからこそ面談や評価がしやすくなり、人的資本経営を推進しやすくなる状態をつくりたいと考えています。

そして、グループ会社のビジョンをカテゴライズして1つのマップに示し、掲示する取り組みも行っています。これは、パーパスを制定した際にグループ会社の社長から「各社にもビジョンやミッションがあるので、持ち寄ろう」という声があがり実現したものです。マップ作成にあたっては、グループ会社の社長が集まったワークショップを企画し、お互いの理解を深めることができました。マップから発展して、グループ各社の詳しい情報をまとめたブランドブックも作成しました。

こうして、パーパスを起点に朝日新聞グループ各社の連携が加速することを期待しています

最後に、今後の展望をお聞かせください。

言葉を扱う会社だからこそ、パーパス浸透策を続けていきたい。今後はインナーブランディングとともに社外発信も強化していく。

山盛

パーパス浸透を続けることが何より大事だと考えています。我々は言葉を扱う会社だからこそ、その消費も早いのではないか、という懸念があるためです。1年後はパーパスを意識できているかもしれませんが、3年後には忘れられてしまうことのないよう、施策を積み重ねていきたいと思います。

また、中期経営計画で定めた各事業部門の方針が実行されるよう、会社のパーパスに沿った検証をしていく必要がありますし、今後はグループ会社とのコミュニケーションや連携を活発にしていきたいと考えています。

外部への発信もこれからの段階です。これは、パーパスそのものを社外の皆さまに理解していただくというより、パーパスを通して朝日新聞社が提供している価値に共感していただく営みになると思っています。これまでも記事という形で発信を続けてきましたが、これからは「私たちは何者か」も積極的に伝えていきたいと考えています。

コーチングやコンサルティング等、
各種サービスに関するご相談は、
お気軽にお問い合わせください。