日本たばこ産業株式会社加工食品事業 トップから始める本気の取り組み、パーパスをグループ全社員に共鳴していく

日本たばこ産業株式会社加工食品事業 
トップから始める本気の取り組み、
パーパスをグループ全社員に共鳴していく

日本たばこ産業株式会社 加工食品事業

日本たばこ産業株式会社 加工食品事業

https://www.jti.co.jp/food/index.html

JT(日本たばこ産業株式会社)グループでは、冷食・常温事業、調味料事業を展開している。冷食・常温事業はテーブルマーク株式会社とケイエス冷凍食品株式会社、調味料事業は富士食品工業株式会社がそれぞれ中心となり、商品の開発や製造、販売を行う。米国、アジア等の海外でも事業展開。加工食品事業のパーパス「食事をうれしく、食卓をたのしく。」を策定し、商品やサービスを通してお客様の食卓へ価値を届ける。

話し手
日本たばこ産業株式会社 食品事業企画室 次長 水元様
富士食品工業株式会社 総務部 人事グループ グループリーダー 植田様
テーブルマーク株式会社 経営企画部 広報チーム チームリーダー 世根村様

※以下インタビュー記事内では敬称略で掲載させていただいております。
※この記事内の肩書き・役職は取材当時のものです。
聞き手
アイディール・リーダーズ株式会社

ご依頼の背景

日本たばこ産業株式会社加工食品事業では、2023年1月にグループの経営陣によって新たなパーパス「食事をうれしく、食卓をたのしく。」を策定し、従業員への浸透策を検討し始めました。

加工食品事業のグループ各社では、浸透にあたってこれまでに同様の取り組みをした経験がない、あるいは個社で過去に目指す姿を策定していたなど、それぞれの課題感を抱えていました。

こうした課題を乗り越え、従業員一人ひとりがパーパスを自分事として捉えられるようになるために、パーパスの理解と共感を深めるためのワークショップを役員向け・幹部向け・従業員向けの3段階に分けて実施。全国の拠点で実施する従業員向けワークショップには必ず役員が参加するなど、トップ層の強いコミットメントのもとでプロジェクトが進んでいます。

今回は、この一連のプロジェクトを推進する水元様、世根村様、植田様に、取り組みの背景や内容、成果や気づきなどを伺いました。

パーパス浸透のワークショップを実施することになった背景を教えていただけますか?

事業トップで決めたパーパスだからこそ、組織全体で実現していくために従業員一人ひとりの深い理解と共感が欠かせなかった。

水元

コロナ禍など世の中が大きく変化する中、JTグループでは「心の豊かさを、もっと。」というグループ全体のパーパスを策定しました。これを受けて、我々加工食品事業では、食というモノ・コトを通じて「心の豊かさ」を実現するには何が必要なのだろうという議論を出発点に、加工食品事業としてのパーパスを策定することになったのです。

パーパスとは、10年や20年先を見据えて考えるものです。そのため、グループ会社の社長を含めた加工食品事業のトップ同士で議論し、「食事をうれしく、食卓をたのしく。」というパーパスを策定しました。食を通じて、商品やサービスを提供する先にある「心の豊かさ」を実現したいという意思を込めたパーパスです。

後藤

パーパスは、どのようなプロセスで検討したのでしょうか。

水元

従業員の声も取り入れてパーパスを考える方法もあったと思いますが、今回はトップで決める方法を採用しました。事業トップが集い、密度の濃い対話を重ねることで、強いコミットメントを持ったパーパスを策定することが重要だと考えました。

だからこそ、従業員一人ひとりがパーパスを自分事と捉えるための取り組みは必須だと考えていました。パーパスの策定に関わった経営陣は強い想いを持っていますが、組織全体でパーパスを実現していくためには、現場の仕事にまでパーパスが入り込み根ざしていかなければなりません。

従業員がパーパスを実現するためには、経営陣から全体へメッセージを発するだけでなく、身近な上司からの働きかけも重要だと考え、パーパスを理解・共感するワークショップを行うことにしました。組織の上層部から順に、役員向け・部長クラスの幹部向け・従業員向けに分けて段階的に行うことにしたのです。

後藤

役員向けと幹部向けのワークショップは、弊社がファシリテーターを担当させていただきました。その後の従業員向けワークショップは、パーパス浸透プロジェクトの皆さんで実施いただいています。

当初からワークショップ形式で浸透する考えをお持ちだったと思いますが、その理由は何でしょうか。

水元

従業員一人ひとりが心から共感しなければ、行動は変わらないと考えたためです。トップダウンで説明するよりも、「自分だったらどうしたいだろうか?」とパーパスへの当事者意識を持って考える経験によってこそ腹落ちするだろうという考えは、パーパス浸透プロジェクトの一貫したコンセプトでした。

加工食品事業のトップも、「トップから従業員に対してパーパスへの明確な答えのようなものを示すことはせずに、みんなで一緒に考えていこう」、という姿勢を持っていたため、対話形式のワークショップが最適だと考えました。従業員は、トップも確固たる答えを持っていないように映ることへの不安めいたものを抱くかもしれませんが、お客様も世の中も変わり続ける中で、過去の成功体験が通用しないことは誰もが感じていると思います。

逆に全てが決まりきっていないことをチャンスだと捉えてもらえれば、我々企画側としては成功と考えていましたし、事業のトップも同じことを考えて「正解はない」とコメントしていたと思うのです。

パーパス浸透にあたっての相談をアイディール・リーダーズに持ちかけたのは、パーパスに注目が集まる世の中ですので、多くの企業の取り組みに精通している外部の力をお借りして進めた方がいいだろうと判断したためです。実際に、アイデアやヒントをいただきながら、我々に最適だと思えるワークショップを共につくりあげていくことができました。

役員向け・幹部向けワークショップを通して、どのようなことを感じられましたか?

パーパスはみんなで目指すものであり、自分の仕事と紐づけて考えることが大切であるという、従業員向けワークショップを行うにあたっての重要な示唆を得た。

植田

私は役員向けワークショップにオブザーバーとして参加しました。役員であっても考えていることは様々であり、異なる意見が飛び交っていたことが印象に残っています。

抽象度の高い言葉で表現されているパーパスをどう咀嚼するかは人それぞれなのだから、従業員へ浸透させるワークショップにはかなり力を入れないといけない、と身が引き締まる思いでした。自然と全社に浸透していくことは起こり得ない、という感覚を抱きましたね。

世根村

商品に近い業務をしている方はパーパスを自分事にしやすい一方、そうではない部門の方々は、パーパスと日常業務を結びつけにくいのだろうということを、役員向けワークショップに参加して感じました。

抽象的なキーワードを自分の仕事に紐づけて考える機会は少なかった中で、従業員向けワークショップを行う際には、この点は乗り越えなければならない壁だと感じました。

また、テーブルマークで元々大切にしていた想いや方向性とは異なる「パーパス」という異質なものがトップから降りてきた、という感覚を従業員が抱いてしまうことだけは避けなければならないと感じました。そのため、従業員にメッセージを発信するにあたり、「パーパス」には、これまで私たちが大切にしていた想いや考え方がしっかり反映、整理されており、「みんなで目指すべきものだ」ということが伝わるよう意識しています。

例えば、従業員向けワークショップを行う前には、パーパスを策定したトップ3名が、その経緯や想い、全員で取り組むというメッセージを語ったインタビュー記事を配信したり、役員全員がパーパスに関する自らの過去の体験を踏まえたメッセージを発信したりといった施策を行ってきました。

従業員向けワークショップを行い、得られた気づきを教えてください。

異なる部門の従業員がパーパスについて対話することで、相互理解が深まった。全てのワークショップには役員が参加。トップの強いコミットメントがあるからこそ、パーパスは浸透することを実感した。

水元

従業員向けワークショップは、全国約30か所の拠点で、我々プロジェクト事務局がファシリテーションを行う形で実施中です。雇用形態や国籍を問わず、全員が参加します。役員向け・幹部向けワークショップを実施いただいたアイディール・リーダーズがワークショップの設計や資料作成を担当し、現場をより把握している社内の我々が進行することにしました。

また、ワークショップには役員も必ず参加し、従業員と対話する時間をできる限り設けています。顔を合わせてメッセージを伝えることで、パーパスへの理解がより進むだろうという理由です。

世根村

役員が時間を投資して全国の拠点を訪問すること、そしてしっかりと組まれたワークショップのプログラム設計を通して、従業員の皆さんにも本気度が伝わっているのではないかと思います。当社の社長は「工場のラインを止めてでもこのワークショップをきちんと実施しよう」と言ってくれました。実際に、製造を止めてワークショップを行った工場はいくつもあります。

植田

当社従業員の間でも全国各地のグループワーク全てにグループ各社の役員が訪問することは話題になっていましたし、パーパスを浸透させる意気込みを肌で感じているようです。テーブルマークの拠点に我々富士食品工業の役員が行くこともあり、グループ他社のワークショップの現場を見られる機会を役員も前向きに捉えているようです。役員陣にとっても負荷が大きい取り組みですが、グループ他社と相互理解するという意味でも得られるものがあったと思います。

川杉

ファシリテーターをした皆さんにとっても、普段の業務とは違うチャレンジだったと思います。何か気づきがありましたか。

水元

アイディール・リーダーズにワークショップの設計や、ファシリテーターとしてのポイントを一緒に考えていただいたおかげで、しっかり進行できました。話をしやすい内容から始めていくなど、工夫がこらされた構成になっていますよね。

世根村

ワークショップの基本的な設計がありつつも、意見を活発に出してもらうための工夫をしたり、時間のバッファを設けたりして工夫を重ねています。

毎回、冒頭は緊張感がありますね。しかしながら、自分たちの過去を振り返り、未来を考える対話を繰り返すうちにどんどん会話が弾んでいくのが印象的でした。

そして我々も回を重ねるたびに新たな発見があり、新鮮でした。役員もメッセージの伝え方を変化させていましたし、ワークショップを通して、物理的に離れた拠点でも同じグループの仲間であることを強く感じましたね。この地域で自社の商品を作って届けてくれているんだな、と。

川杉

従業員の皆さんは、どのような反応でしたか。

植田

多様な意見に触れてほしいと考え、異なる部署のメンバーが交流できるようなグループ構成にしたのですが、部署や雇用形態が違えば考えも違うことを実感し、新たな発見が得られたとポジティブに捉えてもらっているようです。部門を超えて共通の課題があれば、その解決に向けてお互いに何ができるか、という議論に発展することもありました。

また、これまで他部門のメンバーと話す機会がなかったという感想も少なくありませんでした。これをきっかけに横の繋がりができたので、今後具体的なアクションが生まれてくることを期待しています。

一回のワークショップだけで全員が腹落ちするわけではなく、頭の中に疑問が浮かんでしまった従業員もいるでしょうが、自分事としてパーパスを考えることが大切なんだと理解する機会を提供できたことは非常に有意義だったと思います。

水元

短時間のワークショップでパーパスを理解しきることは難しいと思います。これまでとは何が違うのか、自分は何をすべきなのか……などと考えることで、これまでとは目線を変えるきっかけになっていれば、一定の目的は達成しているのだと思います。

大切なのは、その後もパーパスを意識することです。社内SNSで各役員からパーパスに対する想いを発信したり、ワークショップを終えるたびにその場の様子を載せたりしています。

世根村

ポスターも作って、社内のいたるところに貼っていますね。月に複数回発信する経営メッセージや社内報等にもパーパスに関する話題や文言を積極的に盛り込むことで、パーパスへのタッチポイントをできる限り増やしています。

植田

名刺のロゴの下にもパーパスを入れるデザインにし、順次切り替え中です。目に触れる機会が増えるだけでなく、取引先様とパーパスの話をすることで、従業員の理解が深まったり、自分の考えをもつことを求められたりする観点からも良い取り組みだと思っています。

従業員向けワークショップを行った後、社内の変化は見られますか?

部門を超えて、自社の提供価値を理解するための取り組みが自発的に行われている。

世根村

テーブルマークグループの物流会社のメンバーから、当社の商品をもっと食べてみたいという話が出たことがきっかけで、営業所メンバーが試食会を開くことが決まりました。職種は違えど、同じグループとして、自分たちの扱う商品をきちんと知ったうえで「食事をうれしく、食卓をたのしく。」という価値をお客様に提供していこう、という想いがこもった取り組みだと思いました。

他にも「普段の会話の中で、パーパス的にはどう?と声をかけあってみよう」といった話もワークショップで出ましたね。ある役員は、その積極的な姿勢に感動し、このエピソードを他の拠点で何度も紹介していたほどです。

植田

当社の商品は業務用ですので、生活者として直接購入して食べる機会はありません。バックオフィス部門の従業員から「口にしたことがない」という話があがったことがきっかけで、新商品の試食会を開きました。その場で営業のメンバーがお客様のニーズや競合の状況、市場の変化を交えた新商品投入の狙いを詳しく説明してくれたんです。そのうえで試食をしたので、まさに当社が「食事をうれしく、食卓をたのしく。」を提供している、誇りをもてる会社であることを理解する場になりました。

水元

ワークショップ後の従業員の様子を見ると、誰もが考えていることがあるものの、発言する機会がなかったのだろうとも感じています。個人的にJTグループの社員は、控えめな方が多い印象なのですが、だからこそ、何かきっかけがあれば心の中に秘めていた考えが出てくるのだと感じているところです。

そして、役員をはじめ多くの人がこれだけの時間を割いてくれたことに感謝しています。私が所属する食品事業企画室だけでは到底できなかったことですから。テーブルマークや富士食品工業と会社としての親子関係をはなれ、ひとつのチームとして議論し、意思決定して実行できたことが肝だと思っています。

世根村

プロジェクトメンバーとは、本当に遠慮なく議論させてもらい、仲間意識が醸成されました。親会社に対してお伺いを立てるといった感覚ではなく、同じパーパスを持つ仲間として、共に楽しみながら進められています。

植田

パーパスの浸透策を進める話があがり、まだ検討事項が山積みの段階から情報を共有してもらっていたので、初期からフラットな関係を築けたように思います。我々も、親会社に言われた通りにやるという感覚はなく、遠慮なく意見を出させてもらっています。

今後の展望をお聞かせください。

加工食品事業のグループ全体で、従業員がパーパスを実現する行動を後押しする施策を続けていきたい。

植田

このワークショップをきっかけに、従業員の誰もが未来を考えながら仕事ができるようになるといいと考えています。パーパスの視点をもつことが文化として醸成され、例えば、各部の従業員が自発的に交流することが当たり前になっている状態です。そのためには、役員も従業員もパーパスを考え続けることが必要ですね。

こうした理想の姿を目指すにあたって、ワークショップの役目は終え、各自が考えていくべき段階に入っていると思います。私も含めて従業員が自分の考えをもち、意見を出し合う文化を根付かせて、会社をより良くしていきたいですね。今回のワークショップで、意見を出すことは組織にとって有益だと感じられたと思うので、今後の行動を変えるきっかけにしてほしいと思います。

水元

そうですね。ワークショップでは、パーパスを実現するためのアイデアが多く出されました。結果的に形にならない取り組みもあるかもしれませんが、正解はありませんから、一つでも成果が出ればいいのではないかと思います。それが新たな価値観の醸成に繋がると考えています。

そのためには、何らかの仕掛けがこれからも必要だと思います。社内で行っている表彰制度のテーマにパーパスを入れるなど、日常業務に根ざした取り組みに舵を切っていくことを想定しています。

世根村

組織体制も、グループ各社の連携を強くして全員でパーパスを実現する形になっていくと良いなと思っています。その一例として、食品総合研究所があります。加工食品事業の各社にあった研究部門が合併してできた組織で、共同研究も盛んになっています。

また、最近新たに立ち上げた「BEYOND FREE(ビヨンドフリー)」は、特定の食材や成分(たとえば卵や乳、肉類、塩分、糖質など)をカットしながらも本格的な味わいを提供することを価値とした商品ブランドです。これはまさに、食事の選択に制約を抱えているお客様にも「食事をうれしく、食卓をたのしく。」を感じてもらいたいという想いから生まれた新たな挑戦です。

水元

グループ共通のパーパスを策定して、会社や部門を超えて共通の取り組みをしているのは、我々のユニークな部分かもしれませんね。グループ一体となることが必須だと思ってこうした活動をしているのは、お客様が求める価値のバリエーションが増えていく中で、個社だけではその期待に応えられないからです。一社だけでも、あるいは一部門だけでも不可能だからこそ、グループ内でパーパスを共通言語として対話をしながら価値を生み出していくプロセスを、これからも大切にしていきたいと思います。

担当コンサルタントからのメッセージ

日本たばこ産業株式会社 加工食品事業様のパーパス共鳴で特徴的なのは、なんといっても、トップ/役員の方が強いコミットメントをもって取り組みを推進されたことです。全国数十か所もの拠点において、すべて対面形式の共鳴ワークショップを実施。またワークショップには複数名の役員が必ず参加し、ファシリテーションは各社から成る事務局チームが担当しました。また、取り組みの根底には「パーパスをどう捉えるのか」に関する共通理解が存在していたように思います。その一つは、「パーパスは上からの押し付けではなく、自分たちが何をしたいのか、何を変えていくのかが大切。パーパスが正解ではなく、問いとして機能し、一緒に考え、行動しながらパーパス実現に向かっていきたい」という方向性だったように感じています。各ワークショップにおいても、その文脈の上で素敵な想いや素晴らしいアイデアが表出されていました。今後は、実際の行動や変化を生み出すパーパス実装フェーズに進んでいくと思いますが、「食事をうれしく、食卓をたのしく。」が着実に前進し、貴社が発展していくことを心よりお祈りいたします。

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