三菱鉛筆株式会社 「ありたい姿」を実現するために、未来洞察の気づきと経営企画室の想いを全社戦略に実装する

「ありたい姿」を実現するために、
未来洞察の気づきと経営企画室の想いを
全社戦略に実装する

三菱鉛筆株式会社

三菱鉛筆株式会社

https://www.mpuni.co.jp/

「ジェットストリーム」や「クルトガ」を始め、多くの大ヒット商品を展開する1887年創業の老舗筆記具メーカー。2022年の海外売上高比率は50%を超え、日本国内だけでなくグローバルで強い支持を得ている。「世界一の表現革新カンパニー」というありたい姿/ビジョンを掲げ、あらゆる人々の個性と創造性を解き放つための存在であり続けることを目指す。

話し手
三菱鉛筆株式会社 執行役員 経営企画室長 平野功一様
三菱鉛筆株式会社 経営企画室 課長 加藤健二郎様
三菱鉛筆株式会社 経営企画室 課長代理 飯野尋子様
三菱鉛筆株式会社 経営企画室 課長代理 寺杣緑様

※以下インタビュー記事内では敬称略で掲載させていただいております。
※この記事内の肩書き・役職は取材当時のものです。
聞き手
アイディール・リーダーズ株式会社

ご依頼の背景

三菱鉛筆株式会社では、創業150年を迎える2036年を目標に「ありたい姿2036(長期ビジョン)」を描き、筆記具メーカーから「表現革新カンパニー」へと飛躍するための体制づくりや施策の検討を始めました。

検討に際して、なぜ「ありたい姿」やそれに基づく変化が重要なのかを広く社内に共有すること、また、世界情勢の変化が激しい中でどのように「ありたい姿」に近づいていくべきかについて悩んでいました。
そこで、社員が共通の認識を持ち共に未来に向かって歩んでいきたいと考え、筆記具事業の未来に対する洞察を得るためにシナリオプランニングのワークショップを実施。単にワークショップを実施して終わりとするのではなく、アウトプットを中期経営計画に取り入れ、発足したタスクフォースで具体的な施策の検討を進めています。

今回は、この一連のプロジェクトを推進する平野様、加藤様、飯野様、寺杣様に、取り組みの背景や内容、成果や気づきなどを伺いました。

シナリオプランニングのワークショップを実施することになった背景を教えていただけますか?

「ありたい姿2036」の実現に向けて、現状に対する危機感を全社で共有するためにシナリオプランニングを実施。この取り組みは、三菱鉛筆にとって初めてのチャレンジとなった。

加藤

当社では2019年頃から、創業150年に向けて「ありたい姿2036」を考え始めました。そして2021年の2月に対外発表をして、社内の各部署に内容の説明を始めました。コロナ禍で出社制限などの環境変化に直面した本社のメンバーには変化の必要性を感じてもらえましたが、製造現場を始め、オペレーション業務を主体とする部署からは共感を得られたわけではない印象がありました。

当初はなぜ共感を示してもらえないのかと悩みましたが、改めて考えてみると、それは当たり前のことだと気づきました。日々、高い品質を保って商品の製造を続けるメンバーは、目の前の仕事を正確に進めることが強く求められます。「自らの意思で変化を生み出す」「現状と異なる取り組みを起案する」ことに対するモチベーションを抱きづらい構造の中で変化の必要性を説かれても、ピンとこないどころか、「そんなことを急に言われても」と思うのが普通ではないかと。

この経験から、「ありたい姿2036」を実現していくために、まず全社として共通認識を持つことが必要だと考えました。

そこで、危機感を共有するために、未来に起こりうることや業界の姿を考え、我々にとっての機会や脅威は何であり、会社をどう変化させていくべきかを考える「シナリオプランニング」を実施することにしたのです。

永井

多くの経営者の方とお話する機会がありますが、シナリオプランニングを活用している企業はまだ多くない印象があります。導入するにあたって、心理的な抵抗はありませんでしたか?

飯野

部署をまたいで全社が一体となるために、これまでとは違うアプローチを試してみたいという思いが強くありました。筆記具市場は、ワープロが生まれた時代からマーケットが縮小する危機に直面しています。デジタル化の流れに伴い、各所で筆記具が積極的に使われなくなってきました。しかし、「市場縮小の危機」は過去から何度も言及されてきたフレーズであり、逆に、今ここで強い危機感を感じにくくなっていたように思います。

そのため、新しい取り組みの必要性を強く感じていました。今までやってきたことの延長線上にある施策よりも、シナリオプランニングという新しい手法を通じて、これまでとは違った視点で自社と社会の未来を自分事で考えてみることで、これまでにない新たな発見があることに期待しました。また、経営企画室が感じている危機感や本気度が、社員に対してより強く伝わってほしいという思いもありました。

永井

シナリオプランニングを通じて、外部環境や業界・市場、自社の変化の方向性を徹底的に考えることで、「未来」についての解像度が高まり、新たな意識や行動につながる可能性がありますよね。危機感を「情報として伝える」のではなく、「共に体験してもらう」という機会となったのではないでしょうか。

シナリオプランニングを活用したことで、どんな新しい気づきを得ることができましたか?

ワークショップを通して、社員個々人の中に眠っていた価値観や考えに触れ、深い相互理解が生まれた。

加藤

今回は、ワークショップ実施後に全体的な変革の機運につなげていくことを重要視しました。そのため、できるだけたくさんの部門から、そして年代や性別、職種や拠点に多様性をもたせることを意識して、社長とありたい姿浸透プロジェクトにてメンバーを選定し、以下の内容を実施しました。

※シナリオプランニング ワークショップの実施内容について
「2036年の筆記具業界の姿」というテーマに基づき、全5回のワークショップを実施、内4回の企画・実施をアイディール・リーダーズが担当しました。ワークショップには、様々な役職や部署から集まった46名が参加し、ワークショップ前後もグループ毎に議論に取り組んでいただきました。各回の内容は下記の通りです。

永井

実際にワークショップをやってみて、どのような感想を持ちましたか。

平野

まずは、全社的なトピックについて各世代の社員が横断して議論すること自体が新鮮な経験でした。若手や中堅社員の発想の柔軟さに触れることができ、個人的にも多くの学びがありましたね。

また、弊社の社風がワークショップにおいて活かされたようにも思います。社員同士の仲が良い家族的な文化が強いので、若手から役員層までがフラットに、かつ積極的に議論できたので、皆に新たな発見がもたらされました。

飯野

当社は、新卒で入社したプロパー社員が多く、社員交流も活発です。そのため、みんな似たような考えを持っているのだと思っていました。

ところが、同じ事象に対して異なる見解を抱いていることも多く、根底にある価値観を垣間見る中で、実はお互いを深く知らなかったということを実感した場面もありました。普段は業務に関する話が中心になりますし、知ったつもりになっていたのだなと。

また、一部の人しか危機感を持っていないと思っていましたが、ワークショップを通して、参加者一人ひとりがそれぞれの立場で会社を良くしていこうという気持ちや危機感を持っていることを強く実感しました。今後の業務においても「この人は、きっとこう思っているだろう」と決めつけず、相手の考えの背景にある価値観に目を向けていきたいと思います。

加藤

私は、世の中の動向やニュースに対して、いかに自分が客観的に見られていないのかを痛感しました。私に限らず、いつの間にか部門特有の価値観や判断基準が染み付いていることに気づかされました。

永井

私も、貴社の組織文化や強みがワークショップに活かされた印象を持ちました。だからこそ、皆さんに多くの気づきや学びがあったのだと思います。これは、どの会社でもできることではありません。逆に、ワークショップで苦労した点などはありましたか?

飯野

シナリオプランニングにおいては、未来を大きく分ける2軸を決める議論がもっとも難航しました。ワークショップでも2軸について検討する時間を延長していただきましたが、そのおかげもあり、自分たちの結論に納得できましたね。腹落ちするまで徹底的に議論したことが今でも印象に残っています。

寺杣

同感です。シナリオプランニングは、さまざまな意見が出てきて議論が発散しやすいので、集約する際には苦労しました。ですが、時間がないからといって、誰かの意見だけを無理に採用したり、収束を急ぎすぎたりしなくてよかったと思います。

加藤

ワークショップはアイディール・リーダーズに依頼して4回行い、さらに社内で5回目を実施しました。デジタル技術の進化や環境問題への対応など、これから必ず対応しなければならないテーマに対して、少し話し切れていない印象があったからです。

そこで5回目のワークショップでは、必ず起きるであろう「不確実性が低い(ほぼ確実に起こると考えられる)」テーマを議論し、そのアウトプットとして5つの課題として設定し、戦略に接続しようと考えました。

シナリオプランニングの内容やアウトプットをありたい姿の実現に向けて、どのような施策につなげていますか?

中期経営計画にシナリオを組み込み、2023年初頭に全社発表した。重要テーマの施策を検討する「経営課題検討プロジェクト」を立ち上げて、今もなお議論が進行中。

平野

シナリオプランニングを実施すること自体はあくまで手段に過ぎないので、アウトプットを作って終わりにせず、どう戦略に落とし込み、社員とのコミュニケーションを設計するかについて、当初から強く意識していました。そこで、将来起こりうるシナリオを社員に伝えたうえで、そのシナリオを中期経営計画に組み込み、具体的な施策を推進したいと考えました。

飯野

まず、シナリオプランニングのワークショップを実施したことを、グループ社員全員が閲覧可能なデジタル社内報で発信しました。参加していない社員が心理的に取り残されないよう、写真も付けて、実施内容を詳しく報告したんです。シナリオプランニングの内容を組み込みながら、「ありたい姿2036」の実現に向けて全員で活動していくモチベーションを高めたいと考えました。

永井

全社に発信するのは手間もかかることですし、後回しになりがちな会社さんは少なくありません。こうして丁寧にメッセージを出すことで、社員個々人に当事者意識が生まれて、行動に結びつきやすくなりますよね。

寺杣

私はワークショップの参加者だったのですが、自部門に戻ってシナリオプランニングの内容を共有したほうがいいと思いました。

当時在籍していた法務部のメンバーに伝えたところ、これから起きるであろうシナリオを前向きに受け止めてくれて、法務がやるべきことを何度も部門内で話し合いました。現場の部門がポジティブな雰囲気で議論できたことは、参加者としても嬉しく思っています。

加藤

次に、5回目のワークショプで扱った5つの課題について、対応策を考えて実行していくために、タスクフォースを立ち上げました。この取り組みは「経営課題検討プロジェクト」と名付け、テーマごとの分科会において執行役員がリーダーとなり、6〜7人のメンバーと一緒に議論を進めています。各分科会での議論は重なる内容もあるため、月1回、分科会リーダーである執行役員に集まっていただき、進捗共有・ディスカッションもしていますね。

平野

これまで当社には、社員が全社課題を検討するような会議体がなく、中長期的なリスクに対する議論が先延ばしになりがちでした。こうした問題意識が積み重なったタイミングでシナリオプランニングを実施したので、これを機に体制を整えて、議論を前に進めようと考えたのです。私自身も、本気でこの活動に向き合っていますし、大いなる期待も寄せています。

加藤

2023年のはじめに、シナリオプランニングのアウトプットを取り入れた中期経営計画を全社発表しました。経営課題検討プロジェクトのスライドは私が作成したのですが、これまで以上に、言葉の一つひとつに気を配りましたね。ワークショップを通して、同じ物事に対しても、人によって受け止め方が違うことを経験したからだと思います。スライドを全社展開するにあたっては、経営企画室のメンバーと相談を重ねて仕上げました。

永井

日本には、長期的な視点で将来に対するリスクや課題を特定し、積極的に取り組んでいる会社がすごく少ないように感じています。そんな中、2036年を見据えて、長期トレンドを踏まえて会社が取り組むべきことにしっかり向き合っていることに敬服しています。

ワークショップの後も、当社は引き続き経営企画室の議論に伴走させていただいていますが、皆さまが「ありたい姿2036」の実現に強くコミットメントして、中期経営計画にシナリオも取り入れながら、粘り強くビジョンや企業理念の浸透活動を続けていることは本当に素晴らしいと思います。

一連の取り組みを通じて、組織・社員にはどのような変化が生まれていますか?

経営企画の視点で議論したことで、本気で会社の未来を考えるようになった。

平野

中長期かつ不確実性が高い未来について議論するという極めて抽象的なテーマに対して、社員がどのくらい本気で向き合ってくれるのか、実施前は想像がつきませんでした。ところが、ワークショップでも、その後の経営課題検討プロジェクトでも、私の予想をはるかに超えて皆が多くの工数をかけて一生懸命に議論してくれています。こうした様子を嬉しく思うとともに、やはり当社にはこの活動が必要だったと改めて実感しているところです。

今回、従来の中期経営計画とは策定プロセスや取りまとめの方向性が大きく変わったことで大変な面もありましたが、皆が自由にチャレンジできていることが本当に嬉しいです。

加藤

私は、外部環境に対する議論をすることが増えたと感じています。今振り返ると、これまでは同業界の競合の動向を意識することが多かったのですが、より高い視座、広い視野で社会の動向に意識を向けるようになりました。

そして、シナリオプランニングや経営課題検討プロジェクトで扱っている内容は、経営企画の業務そのものだと思います。今回、多くの社員が外部環境について真剣に議論し、経営企画業務のミニ体験をできたことは、社員の能力開発の観点でも良いことであると感じています。

今後、どのように会社を成長させていきたいか、展望をお聞かせください。

「ありたい姿2036」の実現に向け、社会課題を解決するためにこれからも進み続けたい。

平野

「ありたい姿2036」を本気で実現させたいと思っています。そのためには社員が自立し、中長期的なシナリオからバックキャストで考える議論を重ねていく必要があります。まだまだ道半ばですが、今と同じ事業形態では、どこかで成長が止まってしまうので、地道に議論を重ねてイノベーションを生み出していきたいです。

飯野

ありたい姿で掲げている「世界一の表現革新カンパニー」となるためには、単に高品質な商品をつくるのではなく、お客様をはじめとするステークホルダーの意見に深く耳を傾ける必要があります。「表現革新」は時代や場面によって変わるものですので、我々が「聴く力」を高め、いかに事業や商品に取り入れるかを積極的に検討したいと思っています。

一方で、さまざまな意見をお聞きすると、我々の軸がぶれやすくなるリスクがあります。その際にシナリオプランニングで徹底的に議論した軸があることで、目指す方向を見失わずにいられると思うのです。

平野

また、企業は社会課題を解決するために存在するのだという意識を改めて持ちたいと思っています。最近、ベンチャー企業の方々と議論する機会が増えており、ベンチャーで働く皆さんの社会課題解決への熱量を肌で感じているんです。

当社も純国産鉛筆を製造し、日本の人たちに品質の良い鉛筆を提供したいという社会課題を解決するという意識のもとで創業したと聞いています。しかし136年も事業を続けていると、今までよりも使いやすい商品は?といった、目の前のことに意識が向かいがちで、社会課題を解決する視点で自分たちの活動を捉える気持ちが薄れてしまっているかもしれない、と感じています。

創業時のような社会課題解決への熱意を胸に、「世界一の表現革新カンパニー」実現に向かって全社員で進み続けたいと思います。

担当コンサルタントからのメッセージ

永井

三菱鉛筆様のシナリオプランニングを用いた本プロジェクトの特徴は、2036年という長期的な未来の機会やリスクを幅広く特定することのみならず、得られた洞察を自社の戦略や変革につなげるという強いコミットメントにあると感じています。それは例えば、シナリオプランニングのワークショップ参加者の選定から、社員とのコミュニケーション方法、タスクフォース型での戦略への落とし込みに至るまで、様々な取り組みに一貫してあらわれていました。自社の事業に何が、どの程度、どう影響を与えるかに関して不確実性が増す中で、関係者の共通認識を築き、意思決定を導くことは容易なことではありません。一方で、「未来のことは分からない」と目を背ける訳にもいきません。こうした事業環境下、シナリオプランニングを活用しながら「世界一の表現革新カンパニー」に向けた変革に本気で取り組み続ける三菱鉛筆様は本当に素晴らしいと感じています。ワークショップに参加された皆さまも、ワークショップ以外の時間も費やしながら、真剣且つ主体的に筆記具業界の未来を洞察し、自分たちがなすべきことは何かについて議論を重ねていらっしゃいました。他の誰かではなく、自分たちで考え抜いた戦略や施策だからこそ理解や納得感、そして実行力も高まります。これからもシナリオプランニングを通じて見出した長期的な未来への視点を持ちながら、自社のありたい姿を着実に実現していかれるであろう三菱鉛筆様の発展を心よりお祈りいたします。
アイディール・リーダーズ株式会社 永井恒男

コーチングやコンサルティング等、
各種サービスに関するご相談は、
お気軽にお問い合わせください。