仕事におけるPurpose – 第5回:Purpose Drivenな組織づくり③

仕事におけるPurpose – 第5回:Purpose Drivenな組織づくり③

第3回第4回はPurpose Drivenな組織づくりのフレームワークとしてよく知られている3Dモデルとその取り組み事例について紹介した。第3回で述べたように、3Dモデル以外もいくつかのモデルがあるため、他のモデルを効果的に活用しながらPurpose Drivenな組織づくりを心がける必要がある。

第5回では、テキサス州オースティンに本社を置くアメリカの多国籍スーパーマーケットチェーンであるホールフーズマーケットの事例を用いて、どのようにPurpose Drivenな組織づくりが行われていくのかをさらに探っていく。

 

これまで、大多数の企業が経営において重視していたのは株主と収益である。しかし、現在のVUCAの時代においては従業員や顧客、サプライチェーンなどの他のステークホルダーも同じように重視されるようになってきている。

企業はPurposeが組織内に浸透することで、会社がどのような運営をし、どんな目標に向かっているのかを従業員に示すことができ、従業員は基本的な製品やサービスの改善を超えて、組織の成功に貢献しようとするモチベーションを高め、継続的なイノベーションが起こる。そのため、企業は株主のために価値を創造するだけに留まらず、社会的意義を含んだPurposeに基づいて経営を行えば、世界に与える影響ははるかに大きくなる。

Purpose Drivenな企業として知られている米国のホールフーズ・マーケット(以下、ホールフーズ)は、1980年にテキサス州オースティンに設立され、現在北米と英国に500以上の店舗を持ち、オーガニック食品などを取り扱っているグルメ・スーパーマーケットである。最初はわずか19人の従業員で創業し、現在、食料品スーパーマーケットチェーンの世界的リーダーとなったホールフーズのCEOであるJohn Mackey氏(以下、Mackey氏)は、会社を成功させただけでなく、経営者が企業を率いる方法にイノベーションを起こしたと同時に、人々のライフスタイルも変えさせた。

 

ホールフーズは「to nourish people and the planet(人と地球に栄養を与える)」をPurposeとして掲げている。そのPurposeは、アマゾンが2017年に137億ドルでホールフーズを買収した後も、ブランドのメッセージやMackey氏のインタビューに浸透し続けている。

以下はホールフーズの事例を用いて、次に紹介するPurpose Drivenな組織をつくる8つのステップが実際にどのように取り組まれているのかを紹介する。(但し、8つのステップに関するすべての事例データがあるわけではないため、今回は2、3、7ステップに関する事例を紹介する。)

2. Purposeを見つけ出す

Purposeは企業が設立されたときに最初から存在する場合がある。会社を設立した起業家は必ずしもそれを明確にしているわけではないが、一般的には暗黙のPurposeがあり、それが起業家を動かしている。会社が成長するにつれ、創業者はそのPurposeを明確にし、会社のコアバリューを明確にすることができる。これは、より意識の高いPurpose Drivenな企業になるためのステップであり、企業は徐々にそのPurposeを意識するようになる。しかし、企業の中には、Purposeもなく、創業者が利益を得ることができる市場機会に気づいて設立された場合もある。

David Rubenstein氏(慈善家であり資産家でもあるDavid Rubenstein氏が、『The David Rubenstein Show』でアメリカのトップリーダーたちにインタビューをし、彼らの長い成功への道のりを明らかにしている)との2020年のインタビューの中で、Mackey氏はブランドの成功にはPurposeが非常に重要であることを述べている。「ホールフーズは最初から社会的意義が含まれたPurposeを設定し、常にPurposeを最優先とした。私たちは世界をより良い場所にして、人々に自然で健康的なオーガニック食品を食べてもらい、よりよい健康な人生を送ってもらいたいと思っている。」

また、Mackey氏の著書「Conscious Capitalism」の中で、彼が最初に起業したときに思ったことを以下のように述べている。「私が起業をして最初に学んだ最も重要なことは、ビジネスは搾取や強制に基づくものではないということでした。その代わりに、ビジネスは協力と自発的な交換に基づいていることに気づきました。人はお互いに利益を得るために自発的に取引をします。ビジネスを成功させるために、すべてのステークホルダーに協力してもらう必要があります。従来の企業では、投資家以外のステークホルダーを最終的な利益の最大化の手段としていました。それはとても残念です。」

Mackey氏にとって、Purposeは起業した時から大事なものだった。彼は起業した際に、どうやってお金を稼ぐかだけを考えていたのではなく、どうすれば人々がより健康的に食事をして長生きできるかを考えていたのだ。

こういった発言をみると、Mackey氏は自分のPurposeに導かれ、不屈の情熱をもってそれを追求していることがわかる。また、Purposeを社内に共有することで、すべての人が健康的な生活を送れるように機能する企業文化が形成される。

以上の内容はハーバード・ビジネス・レビューの「Purpose Drivenな組織をつくる8つのステップ」で紹介された第2のステップ、「Purposeを見つけ出す」ことを表している。

3. 根拠の必要性を認識する

ホールフーズの前CEOであるWalter Robb氏(以下、Robb氏)はTrademarkのインタビューで、こう述べている。「ビジネスは株主だけではなく、ステークホルダーのグループによって成り立っていると思う。ビジネスを成長させるためには、すべてのステークホルダーの利益を考え、意思決定を行わなければならない。お金を稼ぐことはあなたの情熱の副産物であって、情熱自身ではない。」

また、Robb氏は、製品の30%がローカルのもので占められていることや、ローカル生産者が製品を加工、流通、拡大するために融資を行ったり、ホールフーズのPurposeに沿った経営方法を実施したりしていると述べている。Robb氏は、これらのプロジェクトや努力は慈善活動ではなくホールフーズが成功した理由の一つであることを明確にした。

Purposeを組織に浸透させたいなら、社長一人の力ではできない。経営層全体がPurposeを自社の最優先として、Purposeに沿った発言、経営方法、プロジェクトの設計をしなければ、従業員の心には響かない。それはハーバード・ビジネスレビューの「Purpose Drivenな組織をつくる8つのステップ」で紹介された第3のステップ、「根拠の必要性を認識する」ことを表している。

7. 従業員をPurposeに結びつける

また、ホールフーズは従業員をPurposeに結びつけるために、従業員たちに自分のPurposeは何かを語ってもらい、その内容をビデオの形でYoutubeに掲載した。

「あなたの人生のPurposeは何ですか?」

「あなたがホールフーズで働くPurposeは何ですか?」

という質問に対して、ビデオの中では

「私のPurposeはホールフーズでの仕事を通じて顧客、コミュニティ、そして社会に良いインパクトを与えることです」

「私のPurposeは人を助けることと、人をハッピーにさせることです」

「私のPurposeはチームメンバーをインスパイアし、チームの可能性を最大限に開拓することです」

と、様々な声が取り上げられている。

 

また、「Whole Foods Tech — Mission and Purpose」のビデオを見ると、「私が毎日仕事を通じて、自分が本当に世界に貢献したい仕事をしていると実感しています」、「私たちの仕事はいつも、なぜそれをするのか、どうやって人を助けるのか、どうやって私たちのPurposeに貢献するのか、どうやって世界を助けるのか、ということばかりです」など、ホールフーズの社内でPurpose Drivenなメンバーが多数いることがわかる。

自分の言葉でPurposeを語ってもらうことで、組織のPurposeへの理解が深まり、さらに、現在の自分はどのような働き方で、どんな思いでホールフーズで働くのかを考えてもらう。その結果、ホールフーズは従業員をPurposeに結びつけることが実現できている。それはハーバード・ビジネスレビューの「Purpose Drivenな組織をつくる8つのステップ」で紹介された第7のステップ、「従業員をPurposeに結びつける」ことを表している。

 

今回は、Purpose Drivenな組織を作る8つのステップとその取り組み事例を紹介した。これまでの記事はすべてPurposeの内容を紹介したが、次回は、ウェルビーイングとウェルビーイング経営について紹介する。

参考文献

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第6回では金銭的な利益だけではなく、Purposeに沿って、人々や社会にとって良いことであるかという軸を元に、Purposeとイノベーションによって事業を成長させた事例によって紹介していきます。

詳細は以上の記事からご覧いただけます。

Purpose Drivenなイノベーション事例の記事についてはこちらから。

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