株式会社マルハン東日本カンパニー 従業員一人ひとりの「好き」を起点にしたパーパス共鳴プロジェクト

株式会社マルハン東日本カンパニー
従業員一人ひとりの「好き」を起点にした
パーパス共鳴プロジェクト

株式会社マルハン 東日本カンパニー

株式会社マルハン 東日本カンパニー

https://www.maruhan.co.jp/east/

東日本エリアにおいて、パチンコやホテル、レジャー・アミューズメント事業などを展開する総合エンターテインメント企業。世界との比較における日本の幸福度の低さを解決すべく、エンターテイメントを提供し、人々のつながりを通して生きる喜びを創出することを目指す。

話し手
株式会社マルハン 東日本カンパニー ブランド戦略部 チーフ ブランディングマネージャー 仲 奈稚様
株式会社マルハン 東日本カンパニー ブランド戦略部 菱﨑 倖多朗様

※以下インタビュー記事内では敬称略で掲載させていただいております。
※この記事内の肩書き・役職は取材当時のものです。
聞き手
アイディール・リーダーズ株式会社

ご依頼の背景

株式会社マルハン 東日本カンパニー様では、2021年に策定したパーパスを社内へ浸透させることへ課題感を抱いていました。パーパスを作成しただけでは意味がなく、実際に自分事化するためにはどのように社内浸透をしていくべきか?足踏みをしている状態でした。

そこで同社では、社員がマイパーパス(自分のパーパス)を見つけ、会社のパーパスとの重なりを考える「パーパス共鳴ワークショップ」を実施。アイディール・リーダーズは、プログラムのアドバイザリーとして参画しました。

今回は、本プロジェクトを推進し、自らワークショップのファシリテートも行った仲様、菱﨑様に、取り組みの背景や内容、成果や気づきなどを伺いました。

パーパス共鳴ワークショップを実施した背景を教えていただけますか?

東日本カンパニーのパーパスを策定したものの、パーパスを作成しただけでは意味がなく、実際に従業員が自分事化するためにはどのようにするべきか?形だけになっている事に悩んでいた。

2021年、株式会社マルハンでエリアごとにカンパニーが分かれたことをきっかけに、東日本カンパニーのパーパスを策定したものの、なかなか従業員に浸透できずにいたことが背景にあります。

パーパス策定の目的は、マルハン全体として「マルハンイズム」という基本理念があるものの、東日本カンパニーとして何をすべきか、社会課題を起点に事業を見つめ直すことでした。「マルハンイズム」が制定されてから時代の変化もありましたし、当時はコロナ禍で我々の事業が大きなダメージを受けている真っ只中だったのです。自社が存続することで精一杯になり、我々が何のためにビジネスをしているのかを見失いかねない時期でした。

桜田

パーパスはどのようなプロセスで、何を重視して策定されましたか。

株式会社マルハン東日本カンパニー パーパス

株式会社マルハン東日本カンパニー パーパス

経営幹部を中心とする50名で対話を重ね、「人とつながりの力で、人生100年時代に生きるヨロコビを創造する。」というパーパスを策定しました。重視したのは、創業者の志に共感することは大切にしつつも、自分たちがどうありたいかを深く考えるプロセスです。

また、浸透までを見据えると全従業員が策定に関与することも大事だと考え、経営幹部で検討した内容に対してアンケートを実施するなど、全員を巻き込むプロセスを踏みました。

ただ、パーパスを策定するプロセスに関わったからといって、すぐに自分事にできるとは限らないことをその後に痛感しました。パーパスを従業員に何度伝えても、目の前の業務や売上がどうしても優先され、その先の話に至らないことに歯がゆい思いを抱いていました。

菱﨑

その当時、私は店舗に勤務していました。今思い返すと、その頃のパーパスはいわゆる「額縁に飾ってあるだけの存在」で、私自身も自分事にできていませんでした。ただ、パーパスの存在は認知していたので、現場に落とし込めていない状況に対して、言葉にならない違和感を抱いていたことを覚えています。

ワークショップを企画し、実施するうえで重視したことは何ですか?

自分の「好き」を見つけ、マイパーパスと会社のパーパスの重なりを見出すことを通して、マルハンが向き合うべき社会課題に対してどう貢献できるかを考えてもらった。

我々はどのような社会課題に対してどう貢献すべきかを意識し続けることと、そのために自分の「好き」を大切にすることです。

パーパスを通して自社の価値を高めるパーパスブランディングをするにあたり、社内で議論を重ねた結果、我々が向き合うべき社会課題は「心の健康」だという結論に至りました。先進国の中で日本の幸福度が低いという現実に対して我々は何ができるのか、自社は本当に社会に必要なのかを考え抜きました。

そこで、パーパス共鳴ワークショップでは、社会課題を解決することを目指すパーパスを自分事にするために、従業員一人ひとりがマイパーパスを考えてもらい、そのプロセスとして自分の「好き」を見つめるワークを行いました。

菱﨑

参加者には、マイパーパスを考える土台として、自分の「好きマップ」を作ってもらうことにしました。好きなこと、やりたいこと、大切にしている思いなどを集めて自分らしさを一枚で表現してもらうものです。

「好きマップ」を作るワークを取り入れた背景として、当社の経営課題に、若年層の流入が少ないことがあります。この課題に向き合うために、若い世代が「心の健康」をどう捉えているかを明らかにすべく、今の社会に対してどう感じているかを調査したのです。

その結果、人生における自由が少なく、違いを受け入れる寛容さが低いことへ違和感があり、「好きなことに没頭して自分らしく生きたい」という願望があることがわかりました。これは若年層に限らず世の中の課題であり、当社にも求められていることではないか、と考えたのです。

そこで、自分らしくいられる「好き」なことを起点にして、当社が未来に向けてどのような企業であるべきかを考えるワークショップを企画しました。

桜田

今回、我々はワークショップのプログラムを検討するにあたってアドバイザリーの立場で参画させていただきました。我々にご依頼いただいた背景や、取り組みをご一緒した感想をお聞かせいただけますか?

パーパスが従業員に浸透せず悩んでいた時に、アイディール・リーダーズのマイパーパスの考え方に出会い、目から鱗が落ちる思いになったからです。会社のパーパスは企業側の視点で策定されますが、自分事にするには自分のパーパスも見つける必要があるという、深い人間理解に基づいた考え方に惹かれました。従業員一人ひとりがマイパーパスと会社のパーパスの重なりを見つけて共鳴することが、まさに我々に必要だと気づかされましたね。

後藤さん、桜田さんとは何度も対話を重ね、我々が本当にやりたいことを引き出してくださったことに感謝しています。

菱﨑

私も同感です。社内の関係者だけでコンテンツ企画をしていたら、自分の「好き」を見つめるという考えには至らず、ワークショップで「パーパスの内容を覚えて帰ってください」と伝えてしまっていたかもしれません。アイディール・リーダーズとご一緒したおかげで、私自身の考えも大きく変わりました。

ワークショップの参加者からは、どのような反応がありましたか?

ワークショップによって「自分を知ることができた」、「好きなことを表現していいとわかった」といったポジティブな声が多く挙がった。

ワークショップの様子

ワークショップの様子

菱﨑

今回、仲と私がワークショップのファシリテートを担当しました。参加者に「好きマップ」を作ってもらったところ、「自分自身を深掘りして考える機会は初めてだった」「今回のワークショップで自分を知ることができた」というポジティブな感想が多く挙がりました。

菱﨑

一方、3時間のワークショップだけでは自分の好きなことを深く考えるのは難しいという声もありましたね。「好き」からマイパーパスに繋げて考える難しさもあったようです。そのような参加者には、自分の「好き」や強みを考えるのが難しいのであれば、価値観や、周囲にどう貢献したいかを起点に考えてみるよう、ワークショップの中でアドバイスしました。すると、考えを前に進められた参加者が多くいたのです。

これは、当社が人材採用時にマルハンイズムに共感していることを重視しているからだと思います。理念に共感するという実体験があるからこそ、私からの少しのフォローでイメージを膨らませてくれたことは、ファシリテーターとしてとても助かりました。

後藤

参加者からの声で、印象に残っているものはありますか。

「自分を見つけられた」と感極まってしまう参加者や、「自分らしさを出してはいけないと思い込んでいた」という感想を挙げてくれた参加者がいたことです。こうした従業員は「好きなことを表現して良いのだと思ったら、この会社が好きになった」とも言ってくれましたね。

菱﨑

最初は「何を学ばなければならないのだろう」と身構えていた従業員もワークショップに前向きに参加していて、「好きマップ」を楽しみながら作っていた様子も印象に残っています。

ワークショップの冒頭で、「パーパスを理解して覚えて帰ってほしいわけではなく、自分の好きなことを見つけてもらってマイパーパスを作り、今後やりたいことと繋げてほしい」と伝えたことがよかったと思います。

店舗でスタッフの「好きなこと・マイパーパス・マルハン東日本パーパス」<br />
の共鳴を掲示している

店舗でスタッフの「好きなこと・マイパーパス・マルハン東日本パーパス」
の共鳴を掲示している

店舗スタッフのマイパーパスを一覧で掲示

店舗スタッフのマイパーパスを一覧で掲示

ワークショップ実施後、組織内の変化や社内外から聞こえてくる声はありますか?

社長と一緒に実施している店舗での座談会では、仕事が楽しくなり、自信が芽生えている様子が感じられる。また、社外へのブランディングや採用パンフレットの制作も進行予定。

現在、社長と一緒に店舗を巡回して座談会を開いているのですが、店舗の従業員に「好きマップ」を説明してもらうと、話が止まらないほど情熱を込めてくれることに驚いています。「好き」がもつ原動力はこれほどまでに強いのかと思わされました。

そして、店舗の従業員からは、会社が変わってきていることを感じるし、仕事が楽しいという感想を多くもらっています。自分の「好き」を会社に認めてもらうことで、「自分はここにいて良いのだ」という気持ちが芽生え、仕事への自信にもつながっているようです。

菱﨑

パーパス浸透ワークショップで作成した「好きマップ」が、あらゆる場面でコミュニケーションツールになっていることを感じます。座談会での対話が弾みますし、名札に自分の好きなことを書いてお客様と会話をしたり、従業員同士で「好きマップ」を共有したりする様子も見られます。これは、ワークショップ前にはなかった光景です。

また、個性や多様性を尊重した身だしなみの新基準 を作ったことで従業員のモチベーションが上がりました。さらには、制服をリニューアルするプロジェクトが現在進行中です。これまでは本社で決めた制服を従業員に着てもらっていましたが、今回はプロジェクトに関わりたい従業員を公募し、「自分らしい着こなしができる制服」づくりを目指して、オンラインミーティングで意見を出し合っています。

このプロジェクトは、本社で制服を決めるより、はるかに多くの時間がかかります。それでも、若手社員が自分たちで未来をつくり、心が動く経験をすることは何よりも大切だと思うのです。自分が好きで、自分が決めたことであれば、壁にぶつかっても乗り越える力が生まれると信じています。リニューアルした制服が完成したら、リニューアルの意味合いや、プロジェクトの過程を社外にも発信していきたいと考えています。

さらに、社外に対しては一人ひとりの「好き」を応援するという企業ブランディングを進めており、その施策のひとつとして「偏愛横丁」というフードフェスを開催しました。これは、各都道府県にゆかりのある「偏愛プロデューサー」を外部から募集してフードやドリンクの開発に携わってもらい、フェス会場で提供したりステージでプレゼンテーションしてもらったりするイベントです。

こうした取り組みによって、社外にブランディングできることはもちろん、社内の従業員からも「会社のイメージが変わった」という声があがっています。ここからパーパス共鳴の勢いが衰えないようにするためには、マイパーパスや会社のパーパスを定期的に考える時間を設けることが大切だと思っています。店舗での定期ミーティングでは必ずテーマに取り上げてほしいと伝えていますし、バックオフィス部門でも四半期に一度、研修を実施しているところです。

今後の展望と、検討している施策についてお聞かせください。

社内外へのブランディング、そして採用活動においてもパーパスの内容を反映させていく予定。最終的な目的はあくまで企業価値の向上であることを忘れずに、今後も覚悟をもって共鳴・浸透策を続けていきたい。

社内向けの施策として検討しているのは、エンゲージメントサーベイの実施です。パーパスを中心とした一連の取り組みの成果が数字として表れるのは、これからの段階だと思います。ただ、施策を通して従業員とコミュニケーションを取ると、会社が変わった、会社が好きになったという声が多く寄せられているので、サーベイ結果も良好であることを期待しています。

そして、採用活動で用いるパンフレットの見直しも予定しており、「自分の好きを大切にする」というメッセージを伝える内容にしたいと考えています。

菱﨑

現在、新卒学生向けの合同企業説明会やインターンシップで配布しているリーフレットの主な内容は会社説明で、それだけを見ても学生は心が動かされていないように感じます。ただ、その後に採用課のメンバーから、「好き」を大切にする会社であることや「偏愛横丁」の取り組みなどをプレゼンテーションすると、学生の目の色が変わるのです。

今後着手する採用パンフレット作成は、当社を知ることで心が動かされる学生が一人でも増えるよう、力を入れていきたいと思っています。

採用活動においてもパーパスを発信していくことで、当社のサービスを利用したことがない採用候補者であっても、マルハンで働くことに興味をもってくれることがあるのだと と思っています。 実際に、近年の新卒採用者の5割はパチンコのノンユーザーです。

しかしながら、パチンコ事業をもつ会社へ就職することに家族から反対される新卒内定者がいることも事実です。また、入社したとしても、自分が働く意欲と、家族の気持ちとの間で葛藤する従業員もいます。こうした若手世代が家族の理解も得ながら、社会課題に向き合う仕事ができるよう、当社のブランディングを諦めずにやっていくべきだということは、常に心に留めておきたいと思っています。

社外向けのブランディングとしては、若年層が多く使っているSNS発信をメインにしながら、「偏愛横丁」第二弾などのイベントも開催予定です。このように、制服やイベントなど具体的な「形」にすることで、社内外のステークホルダーにパーパスの実感値をもってもらうことを目指しています。

ただし、好きなことであれば何でも自由にしていいわけではないと考えています。自社の歴史で大切にしてきたマルハンイズムを軸にする事、創業の精神、人格形成は大切にしつつも心の健康の社会課題に本気で取り組むための自分らしい「好き」の意味や目的を見失うことなく、施策を積み重ねることが大切です。マルハンの他カンパニーや同業他社から我々の取り組みを知りたいと問い合わせをいただいた際も、最終的には企業価値を上げるために行っているという本質を見失わないこと、そして会社が変わるまで施策を続ける覚悟をもつことが大切だとお伝えしています。

後藤

ありがとうございます。最後にお聞きしたいのですが、仲さんと菱﨑さんの強い情熱は、どこから生まれているのでしょうか?

私はマルハンという会社が好きで、ここに私がいる価値は何だろうと考え続けているからだと思います。マルハンが新しいチャレンジをすることに反対する人もいることは事実です。でも、その反対意見に屈してしまっては、自分達のよさを失ってしまいます。この会社で働くみんなが一歩踏み出す勇気をもつ組織にすることは、私の使命だと思っています。

私自身がマイパーパスと会社のパーパスの重なりを見出せているからこそ、大きな壁にぶつかっても諦めない力をもつことができています。

菱﨑

私が店舗で勤務していた時期、離職者が多く出てしまっていました。私も同僚もマルハンイズムに共感して、この会社を好きになれると思って入社したはずなのに、すぐに仕事を離れてしまう状況を目の当たりにして、心が痛かったことを覚えています。

ただ、同僚が退職する原因をなんとなく肌で感じていて、辞める理由を理解できてしまう自分に対する悔しさも同時に抱いていました。

菱﨑

この悔しさを解消したいと思っていたところ、縁があってブランド戦略部に異動することになり、今に至ります。仲とは違う原体験がありながらも、この会社をよりよくしていきたいという思いは同じです。

今は、アイディール・リーダーズにご提供いただいたノウハウをもとに、今後さらにパーパスを浸透させなければならないという使命感を新たにしています。共鳴・浸透活動をするための土台づくりにおいて大いに貢献いただいたので、これからは我々でがんばっていこうというエネルギーに溢れています。

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